甲状腺機能低下症とは?症状・原因・治療まで専門医が徹底解説
「最近、なんだかいつも体がだるい」「食事量は変わらないのに太ってきた」。そんな原因不明の不調を、年齢や疲れのせいだと諦めていませんか?その見過ごしがちなサインの裏には、実は「甲状腺機能低下症」という病気が隠れているかもしれません。
この病気の最多の原因である橋本病は、成人女性の10人に1人が罹患するとも言われるほど身近なものです。しかし、その症状は更年期障害やうつ病とよく似ているため、ご自身で気づくのが難しく、適切な対処が遅れてしまうことも少なくありません。
この記事では、あなたの不調の正体を見極めるための症状セルフチェックから、具体的な治療法、日常生活での注意点までを詳しく解説します。ご自身の体の声に耳を傾け、健やかな毎日を取り戻すための一歩を踏み出しましょう。
「だるい・太る・寒がり」は甲状腺のサイン?症状セルフチェックと見分け方
「最近、なんだかいつも体が重くて疲れやすい」 「食事量は変わらないのに、なぜか体重が増えてきた」 「周りの人は平気なのに、自分だけひどく寒く感じる」
このような体の変化に心当たりはありませんか。もし感じているなら、それは甲状腺の機能が低下しているサインかもしれません。「年齢のせいだろう」「少し疲れているだけ」と見過ごしてしまいがちな症状の裏には、甲状腺機能低下症という病気が隠れていることがあります。
甲状腺ホルモンは、いわば「体の活動のアクセル」です。このホルモンが全身の細胞に働きかけることで、私たちは元気に活動できます。しかし、甲状腺機能低下症になると、このアクセルが踏めない状態になり、全身のエネルギー代謝がゆっくりになってしまいます。
症状は非常にゆっくりと現れるため、ご自身では変化に気づきにくいのが特徴です。ご自身の体の声に丁寧に耳を傾け、一緒に体調を見直してみましょう。

当てはまる?甲状腺機能低下症の代表的な症状リスト
甲状腺ホルモンの不足は、心と体にさまざまなサインをもたらします。以下に代表的な症状をまとめましたので、ご自身の状態と照らし合わせてみてください。
【全身にあらわれる症状】
- 疲れやすさ、全身の倦怠感 エネルギーを作り出す力が落ちるため、常にだるさを感じます。
- 寒がり(低体温) 熱を産生する力が弱まり、周りの人より寒さを感じやすくなります。
- 体重の増加 食事量は増えていなくても、基礎代謝が低下するため太りやすくなります。
- 顔や手足のむくみ 特に朝、まぶたが腫れぼったくなることがあります。
- 便秘 消化管の動きも鈍くなるため、便が出にくくなります。
- 声がかすれる、低い声になる 声帯がむくむことによって起こります。
- 脈がゆっくりになる(徐脈) 心臓の働きも穏やかになり、脈拍が1分間に60回未満になることがあります。
【精神・神経にあらわれる症状】
- 物忘れ、集中力の低下 脳の働きが鈍くなり、頭がぼーっとすることが増えます。
- 無気力、無関心 何事にもやる気が起きず、意欲が低下します。
- 日中の強い眠気 十分な睡眠をとっても、眠気が取れないことがあります。
- 気分の落ち込み(抑うつ気分) 理由なく気分が沈み、ふさぎ込みがちになります。
【見た目の変化】
- 皮膚の乾燥 汗をかきにくくなり、肌がカサカサになります。
- 抜け毛の増加 髪がパサつき、抜けやすくなります。
- 眉毛の外側が薄くなる 甲状腺機能低下症に特徴的なサインの一つです。
- 舌が大きくなる 舌がむくむことで、ろれつが回りにくく感じることがあります。
これらの症状は、一つだけではなく複数が重なって現れることがほとんどです。気になる症状があれば、どんな小さなことでも記録しておくと、診察の際に役立ちます。
見落としがちな体の変化(むくみ・便秘・抜け毛・うつ気分)
甲状腺機能低下症の症状には、他の病気や単なる体調不良と間違われやすいものが多くあります。特に注意したい4つのサインを詳しく解説します。
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むくみ 甲状腺機能が低下すると、皮膚の下にムコ多糖類という水分を保持しやすい物質がたまります。そのため、指で押しても跡が残りにくい、パンパンとした硬いむくみ(粘液水腫)が出現するのが特徴です。
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便秘 全身の代謝が落ちるのと同様に、胃腸の働きもゆっくりになります。食事や運動、市販薬などで対策しても改善しない頑固な便秘は、甲状腺の機能低下が原因かもしれません。
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抜け毛 髪の毛の成長サイクルが乱れることで、抜け毛が増加します。特に、眉毛の外側3分の1が薄くなる症状は「ヘルトゲ徴候」と呼ばれ、この病気に比較的特徴的なサインとされています。
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うつ気分 気分の落ち込みや無気力は、心の病気と思われがちです。しかし、甲状腺ホルモンの不足が脳の機能に直接影響し、うつ病に似た症状を引き起こすことがあります。実際、甲状腺の病気である橋本病を持つ方に対して、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)という心理療法を行ったところ、抑うつや不安感が和らいだという研究報告もあります。これは、体の状態と心の状態が密接に関連していることを示しています。
自分でできる症状チェックシート
最近の体調を振り返り、ご自身の状態を確認してみましょう。以下の項目で、ここ数ヶ月の間に当てはまると感じるものにチェックを入れてください。
【甲状腺機能低下症セルフチェックシート】 □ 以前より明らかに疲れやすく、体が重だるい。 □ 食事量は変わらないか、むしろ減っているのに体重が増えた。 □ 周囲が快適な温度でも、自分だけが寒く感じる。 □ 肌が乾燥し、クリームを塗ってもカサカサする。 □ 朝起きると顔や手足がむくんでパンパンになっている。 □ お通じが週に2〜3回以下で、便秘に悩んでいる。 □ ブラシやシャンプーの際に、抜け毛が増えたと感じる。 □ 声がかすれたり、以前より低い声になったりした。 □ 人の名前や物の置き場所を忘れやすくなった。 □ 何をするにもやる気が起きず、気分が落ち込みがちだ。 □ 日中、我慢できないほどの強い眠気に襲われることがある。 □ 脈を測ると、1分間に60回未満であることが多い。
このチェックリストは、あくまでご自身の状態を把握するための目安です。3つ以上当てはまる場合は、甲状腺の機能が低下している可能性も考えられます。一度、専門の医療機関で相談してみることをお勧めします。
間違えやすい更年期障害やうつ病との違い
甲状腺機能低下症の症状は、更年期障害やうつ病と非常によく似ているため、自己判断は難しいものです。特に40代から50代の女性では、不調の原因を「更年期だから」と思い込んでしまうケースが少なくありません。
| 症状 | 甲状腺機能低下症 | 更年期障害 | うつ病 |
|---|---|---|---|
| 気分の変化 | 無気力、ぼーっとする | イライラ、不安、気分の波 | 強い抑うつ、興味・喜びの喪失 |
| 体温感覚 | 強い寒がり | ほてり、のぼせ(ホットフラッシュ)、冷え | 大きな変化はないことが多い |
| 体重の変化 | 増加傾向(むくみ伴う) | 増減は人による | 減少または増加することがある |
| 特徴的な症状 | 押しても凹まないむくみ、声がれ、眉毛が薄くなる | 発汗、動悸 | 睡眠障害(特に早朝覚醒)、食欲不振 |
このように症状には重なる部分が多いですが、甲状腺機能低下症には「強い寒がり」や「特有のむくみ」など、見分けるためのヒントがあります。
また、うつ病との関連も深く、単に症状が似ているだけではありません。甲状腺の働きが、うつ症状や治療薬の効果に影響を与える可能性を示唆する研究も進んでいます。例えば、脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)という値が、双極性障害というタイプのうつ病の治療効果と関連するという報告もあります。
これは、体(甲状腺ホルモン)と心(うつ症状)がいかに密接につながっているかを示す一例です。正確な診断のためには、血液検査で甲状腺ホルモンの値を客観的に確認することが不可欠です。気になる症状があれば、「きっと○○だろう」と思い込まず、専門医に相談しましょう。
なぜ起こるの?甲状腺機能低下症の原因と診断までの流れ
「最近、なんだか疲れやすい」「食事の量は変わらないのに太ってきた」。こうしたお体の変化の原因がわからないと、不安な気持ちになりますよね。ですが、原因がわかればご自身の状態を正しく理解でき、安心して治療に臨むことができます。
甲状腺機能低下症は、さまざまな原因によって起こります。ここでは、その原因と、病院ではどのような流れで診断されるのかを、一つひとつ丁寧に解説していきます。ご自身の体で何が起きているのか、一緒に理解を深めていきましょう。

最も多い原因「橋本病」とはどんな病気か
甲状腺機能低下症の原因として、最も多いのが「橋本病」です。正式には「慢性甲状腺炎」と呼ばれ、自己免疫疾患の一つです。
自己免疫疾患とは、本来ウイルスなどから体を守る免疫システムが、誤って自分自身の組織を攻撃してしまう病気のことです。橋本病では、免疫が甲状腺を「異物」とみなして攻撃し、慢性的な炎症を引き起こします。その結果、甲状腺の細胞が少しずつ壊され、甲状腺ホルモンを十分に作れなくなり、機能低下症に至ることがあります。
橋本病は特に成人女性に多く、10人に1人程度の割合で見られるとも言われ、決して珍しい病気ではありません。発症には遺伝的な要因が関係すると考えられていますが、近年では発症の引き金として、さまざまな要因が関与することもわかってきました。
例えば、過度のストレスや過去のつらい体験といった心理的な要因が、免疫システムに影響を与える可能性が指摘されています。また、腸内環境の乱れ(つまり、腸内の善玉菌と悪玉菌のバランスが崩れること)が、全身の免疫の働きを乱し、自己免疫疾患の発症に関わるという研究も進んでいます。
ただし、橋本病と診断されても、すぐに甲状腺機能が低下するわけではありません。多くの方は甲状腺の機能が正常なまま過ごされています。過度に心配せず、定期的に血液検査などで甲状腺の状態を確認していくことが大切です。
手術や薬、ヨウ素の過不足などその他の原因
橋本病以外にも、甲状腺機能低下症を引き起こす原因はいくつかあります。ご自身の状況と照らし合わせながら確認してみてください。
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甲状腺の治療後
- 手術による切除 甲状腺がんやバセドウ病などで甲状腺を切除した場合、ホルモンを作る組織そのものが物理的に少なくなるため機能が低下します。
- アイソトープ(放射性ヨウ素)治療 バセドウ病の治療法の一つです。放射線を出すヨウ素を内服し、甲状腺の細胞を内側から破壊するため、治療後に機能が低下することがあります。
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薬の副作用
- 一部の薬剤が甲状腺の機能に影響を与えることがあります。不整脈の薬(アミオダロン)、気分の安定薬(炭酸リチウム)、C型肝炎の治療薬(インターフェロン)などが知られています。現在服用中の薬がある場合は、必ず医師にお伝えください。
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ヨウ素のバランスの乱れ
- 過剰摂取 ヨウ素は甲状腺ホルモンの大切な材料ですが、摂りすぎると逆にホルモンの生成が抑えられてしまいます。昆布の佃煮を毎日大量に食べる、ヨウ素を含むうがい薬を長期間使用するなどの習慣がある場合は注意が必要です。
- 摂取不足 日本では通常の食生活でヨウ素が不足することは、まずありません。
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脳からの指令系統の異常
- 甲状腺は、脳の中心部にある「下垂体」という司令塔から出るホルモン(TSH)によってコントロールされています。この司令塔に腫瘍などができて機能が低下すると、甲状腺への命令が出なくなり、結果として機能が低下します。
何科を受診すればよい?病院選びのポイント
甲状腺の病気を疑ったとき、何科を受診すればよいか迷われるかもしれません。甲状腺疾患は、主にホルモンの異常を専門とする以下の診療科で診ています。
- 内分泌内科
- 代謝内科
- 糖尿病内科
特に、糖尿病と甲状腺疾患はどちらも自己免疫が関わることがあり、合併しやすい疾患です。そのため、私たち糖尿病専門医も甲状腺疾患の診療を専門としています。もし、どの科にかかればよいか分からない場合は、まずはかかりつけの内科医に相談し、専門医を紹介してもらうのがよいでしょう。
安心して治療を受けるためには、信頼できる医療機関を選ぶことが重要です。以下のポイントを参考にしてみてください。
【医療機関選びのチェックポイント】
□ 日本内分泌学会や日本甲状腺学会の専門医が在籍しているか
□ 血液検査や甲状腺の超音波(エコー)検査が院内でスムーズに受けられるか
□ 検査結果や治療方針について、あなたの疑問や不安に寄り添い、丁寧に説明してくれるか
診断に必須の血液検査(TSH, FT4)の数値の見方
甲状腺機能低下症の診断は、主に血液検査で行われます。特に重要なのが「TSH」と「FT4」という2つのホルモンの値です。これを、会社の「本社」と「工場」の関係に例えてみましょう。
- FT4(遊離サイロキシン) 甲状腺(工場)が実際に作る製品です。全身の細胞にエネルギーを使うよう働きかける「元気の素」となる甲状腺ホルモンです。
- TSH(甲状腺刺激ホルモン) 脳の下垂体(本社)から出る命令です。「もっと製品(FT4)を作れ!」と工場(甲状腺)に指示を出します。
この2つの数値の関係から、甲状腺の状態を正確に判断します。
| 状態 | 本社からの命令(TSH) | 工場の製品(FT4) | 体の状態(解説) |
|---|---|---|---|
| 正常 | 正常値 | 正常値 | 本社と工場の連携がスムーズで、バランスが取れている状態です。 |
| 甲状腺機能低下症 | 高い | 低い | 工場が不調で製品を作れないため、本社が「もっと頑張れ!」と必死に命令を出し続けている状態です。 |
| 潜在性甲状腺機能低下症 | 高い | 正常値 | 工場はまだ頑張って製品を作れていますが、本社は「このままでは危ない」と判断し、強く命令を出し始めている状態です。 |
このように、血液検査で**「TSHが高く、FT4が低い」**場合に、甲状腺機能低下症と診断されます。
さらに、原因が橋本病かどうかを調べるために、以下の「自己抗体」も測定します。
- 抗TPO抗体
- 抗サイログロブリン(Tg)抗体
これらは、自分の甲状腺を攻撃してしまう免疫物質のことで、橋本病の診断の決め手となります。これらの検査結果を総合的に判断し、あなたの体の状態に合わせた治療方針を一緒に考えていきます。
どう付き合う?治療の選択肢と日常生活の工夫
甲状腺機能低下症と診断され、今後の生活に不安を感じていらっしゃるかもしれません。しかし、ご安心ください。適切な治療を続け、日常生活で少し工夫をすることで、症状をコントロールし、これまでと変わらない健やかな毎日を送ることが可能です。
治療の基本は、体の中で不足している甲状腺ホルモンを、お薬で補うことです。これは非常にシンプルで理にかなった治療法です。ここでは、治療の選択肢と日常生活での注意点について、具体的に解説していきます。一緒に一つひとつ確認しながら、病気と上手に付き合っていきましょう。

基本となる薬物療法(チラーヂンS)の効果と注意点
甲状腺機能低下症の治療は、「甲状腺ホルモン補充療法」が中心となります。これは、体内で作れなくなってしまった甲状腺ホルモンを、お薬の形で補うという治療法です。
お薬の種類と効果 一般的に「レボチロキシンナトリウム(商品名:チラーヂンSなど)」というお薬を使用します。このお薬は、もともと私たちの甲状腺で作られているホルモンと全く同じ成分です。
体にとって異物ではないため、非常になじみやすく、副作用の心配が少ないのが大きな特徴です。お薬を毎日きちんと服用することで、低下していた全身の代謝が本来のペースを取り戻します。
- だるさや疲労感がなくなり、活動的になれる
- つらかった寒がりが和らぐ
- パンパンだったむくみがすっきりする
- 代謝が正常化し、体重がコントロールしやすくなる
このように、多くのつらい症状が改善され、以前のような元気な自分を取り戻すことが期待できます。
服用する上で知っておきたい注意点 治療を安全かつ効果的に進めるため、以下の点にご留意ください。
- 毎日決まった時間に飲むこと ホルモンの血中濃度を一定に保つことが重要です。朝食前など、毎日同じタイミングで飲む習慣をつけましょう。
- 自己判断で中断しないこと 症状が良くなっても、それはお薬でホルモンが補われているおかげです。自己判断でやめると再びホルモン不足の状態に戻ってしまいます。
- 他の薬やサプリメントとの飲み合わせ 鉄剤やカルシウム剤、一部の胃薬は、チラーヂンSの成分と結合し、腸からの吸収を妨げることがあります。服用間隔を4時間程度あけるなどの工夫が必要ですので、常用しているお薬やサプリメントは必ず医師に伝えてください。
- 定期的な血液検査 治療効果を客観的に評価し、お薬の量があなたにとって最適かどうかを確認するために、定期的な血液検査は不可欠です。季節や体調によっても必要なホルモン量は変動することがあるため、継続的な確認が大切です。
薬はいつまで飲む?治療期間とゴールについての考え方
「このお薬は、いつまで飲み続ければよいのだろう?」と、多くの方が疑問に思われます。橋本病のように、甲状腺自体の機能が元に戻ることが難しい場合、多くは生涯にわたってお薬を飲み続けることになります。
「一生」と聞くと、少し気が重くなるかもしれません。しかし、血圧やコレステロールのお薬と同じように、あなたの体のバランスを整え、健康を守るための「大切なお守り」や「頼れるパートナー」と考えてみてください。
治療のゴールは「数値」と「実感」の両立 治療のゴールは、単に血液検査の数値を正常範囲に戻すことだけではありません。私たちは、以下の2つを大きな目標として、あなたと一緒に治療を進めていきます。
- つらい症状がなくなり、あなたらしく元気に過ごせること だるさや寒がりといった自覚症状が改善し、仕事や家事、趣味などを以前のように心から楽しめる状態を目指します。これが最も大切なゴールです。
- 血液検査の数値が基準値内で安定すること 甲状腺刺激ホルモン(TSH)や甲状腺ホルモン(FT4)の値が、適切な範囲に保たれている状態を維持します。これにより、将来的な合併症のリスクを減らすことができます。
治療は長い道のりになりますが、焦る必要はありません。定期的にあなたの体調をお伺いしながら、二人三脚で最適な状態を見つけていきましょう。
食事で気をつけること ヨウ素(昆布など)の摂取は?
甲状腺機能低下症の治療において、厳しい食事制限は基本的にありません。さまざまな食品をバランス良く食べることが、健康な体づくりの基本です。ただし、甲状腺ホルモンの材料となる「ヨウ素」の摂り方には、少しだけ注意が必要です。
ヨウ素の「摂りすぎ」に注意 ヨウ素はホルモンを作るのに不可欠ですが、橋本病の方が過剰に摂取すると、逆に甲状腺の働きにブレーキをかけてしまい、病状を悪化させることがあります。
特に昆布(根昆布やとろろ昆布など)や、昆布だしを毎日大量に摂取する習慣がある方は注意しましょう。また、ヨウ素を含むうがい薬の長期的な使用も避けるのが賢明です。わかめや海苔などの海藻類は、たまにお味噌汁などで楽しむ程度であれば問題ありません。大切なのは「極端な摂りすぎを避ける」ことです。
最近注目される「腸内環境」と甲状腺の関係 近年の研究では、私たちの腸内にすむ細菌のバランス(腸内細菌叢)が、全身の免疫システムに深く関わっていることが明らかになってきました。
橋本病は自己免疫疾患の一つであり、この腸内細菌のバランスの乱れが、免疫の誤作動を引き起こす一因になる可能性も指摘されています。特定の食品を極端に避けるよりも、食物繊維や発酵食品をバランス良く食事に取り入れ、腸内環境を健やかに保つことが、長期的な免疫の安定につながるかもしれません。
妊娠・出産は可能か 計画する際に知っておくべきこと
甲状腺機能低下症であっても、お薬で甲状腺機能をきちんとコントロールしていれば、全く問題なく妊娠・出産が可能です。むしろ、お母さんとお腹の赤ちゃん双方の健康のために、甲状腺ホルモンを適切な状態に保つことが非常に重要になります。
妊娠を計画する際に知っておきたいこと 妊娠を希望される場合は、計画の段階から必ず主治医に相談してください。安全な妊娠・出産のために、以下の準備を一緒に進めていきましょう。
| 時期 | 具体的に行うこと・知っておくべきこと |
|---|---|
| 妊娠前 | ・妊娠前からチラーヂンSを服用し、甲状腺ホルモン値を安定させることが最も重要です。 ・特にTSH(甲状腺刺激ホルモン)は、流産リスクを減らすため、妊娠に適した数値(一般的に2.5 μU/mL未満)にコントロールしておくことが望ましいとされています。 |
| 妊娠中 | ・お腹の赤ちゃんの脳や神経が発達するために、通常よりも多くの甲状腺ホルモンが必要になります。 ・そのため、妊娠がわかったらすぐにチラーヂンSの服用量を2〜3割程度増やすのが一般的です。 ・妊娠中は定期的に血液検査を行い、お母さんと赤ちゃんにとって最適なホルモン状態を維持できるよう、こまめにお薬の量を調整していきます。 |
| 出産後 | ・出産後はホルモンバランスが大きく変化するため、お薬の量を妊娠前の量に戻したり、再度調整したりする必要があります。 |
甲状腺ホルモンは、赤ちゃんの健やかな成長、特に脳の発達にとって不可欠な栄養素です。お母さんが適切な治療を続けることが、ご自身の健康と、赤ちゃんの未来を守ることにつながります。不安な点はいつでも医師に相談し、安心して新しい命を迎える準備をしていきましょう。
まとめ
今回は、甲状腺機能低下症の症状から原因、治療法までを詳しく解説しました。 「だるい」「太る」「寒がり」といった症状は、年齢のせいや単なる疲れと見過ごされがちです。しかし、その背景には甲状腺ホルモンの不足という明確な原因が隠れているかもしれません。
幸い、この病気は不足したホルモンをお薬で補うというシンプルな治療法で、つらい症状を大きく改善できます。自己判断で「更年期だから」「うつ病かも」と思い込まず、気になる体のサインがあれば、まずは内分泌内科などの専門医に相談してみましょう。
あなたの体調不良の原因を正しく知り、適切なケアを始めることが、元気な毎日を取り戻すための大切な一歩になります。
参考文献
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