「数年間、治療を放置してしまった…」そんな時こそ、ご相談ください
「糖尿病の治療を中断して数年経ってしまった…」「今さら病院に行っても、きっと医師に怒られるに違いない」。そのような不安や気まずさから、受診への一歩が踏み出せずにいる方もいるのではないでしょうか。実は、治療が必要な方のうち約4〜5人に1人は治療を受けていないという調査結果もあり、同じお気持ちを抱えている方は決してあなた一人ではありません。
お仕事の事情、治療への負担感、思うように改善しないもどかしさ。治療から足が遠のいてしまう理由は様々です。専門医の視点から、私たちが決してあなたを責めない理由と、今から治療を再開することが、未来の合併症を防ぐためにどれほど大切かをお伝えします。もう一度、ご自身の体と向き合う勇気を持つために、ぜひ読み進めてみてください。
「怒られるかも…」その不安、まず解消しませんか?
「糖尿病の治療を中断して数年経ってしまった…」 「今さら病院に行っても、きっと医師に怒られるに違いない」
そのような不安や気まずさから、受診への一歩が踏み出せないでいるのではないでしょうか。糖尿病専門医として日々多くの患者さんとお会いする中で、同じようなお気持ちを抱えて来院される方は決して少なくありません。
しかし、どうかご安心ください。私たちは、あなたが再びご自身の健康と向き合おうとしている、その勇気を心から尊重したいと考えています。この先では、受診への不安を少しでも和らげるためのお話をさせていただきます。

治療を中断してしまった背景を、私たちは理解します
糖尿病の治療は、毎日の食事や運動など、生活に密着した自己管理が長く続きます。そのため、様々なご事情で治療から足が遠のいてしまうことがあります。決して、あなたの意志が弱いわけではありません。
実際に、治療を中断された方からは、以下のようなお話を伺うことが多くあります。
- お仕事やご家庭の事情
- 仕事の繁忙期や不規則なシフト勤務で、通院時間を確保できなかった。
- 転勤や引っ越しを機に、かかりつけ医が見つからないままになってしまった。
- ご家族の介護や子育てに追われ、ご自身の健康を後回しにしてしまった。
- 治療そのものへの負担感
- 厳しい食事制限がストレスになり、友人や同僚との付き合いを楽しめなくなった。
- 血糖値を下げる薬を飲むことに、精神的な抵抗を感じてしまった。
- 自覚症状が全くなかったため、治療の重要性を実感できず、つい中断してしまった。
- 心理的な要因
- 血糖値の数値に一喜一憂することに疲れてしまった。
- 努力しているのに思うように数値が改善せず、治療への意欲を失ってしまった。
- 以前の医療機関で、心ない言葉をかけられた経験がある。
これらのご事情があれば、治療を続けるのが難しくなるのは当然のことです。どのような理由であっても、ご自身を責める必要はまったくありません。大切なのは、治療を中断した理由を私たち医療者がしっかりと理解し、今度こそ無理なく続けられる方法を一緒に見つけ出すことです。
医師はあなたの味方です。放置したことを決して責めません
「治療を放置したことを、厳しく責められるのではないか」というご心配は、どうか手放してください。私たち医師が最も重視しているのは、あなたの「過去」ではなく、「今とこれから」の健康です。
私たちがなぜ、治療を中断したことを責めないのか、その理由を具体的にお伝えします。
- 最優先すべきは、未来の合併症を防ぐことだからです 私たちの使命は、あなたの現在の体の状態を正確に把握し、これから起こりうる合併症のリスクを最小限に食い止めることです。過去の行動を問うよりも、現在の血糖値や血管の状態を評価し、今後の治療計画を立てる方が、医学的に何倍も重要です。
- 治療の継続が難しい状況を、専門家として理解しているからです 先述したように、治療を続けられなくなる背景には、ご本人だけの努力では乗り越えがたい事情があることを、私たちは臨床経験から熟知しています。
- 信頼関係こそが、治療効果を高める土台となるからです もし私たちがあなたを責めてしまえば、あなたは本音を話せなくなり、治療への不安や疑問を打ち明けられなくなるでしょう。それでは、あなたに本当に合った最適な治療は行えません。何でも話せる信頼関係を築き、治療のパートナーとして伴走することこそ、私たちの役割だと考えています。
勇気を出して再び受診してくださったその行動を、私たちは心から歓迎します。安心して、あなたの今の状態を私たちにお聞かせください。
「自分だけが…」と悩まないで。治療を再開する方は大勢います
「こんなに長く治療を空けてしまったのは、自分だけだろう」と、孤独を感じているかもしれません。しかし、実際には一度治療を中断した後に、再び治療を始める方は非常に多くいらっしゃいます。
厚生労働省の調査(2019年「国民健康・栄養調査」)によると、「糖尿病が強く疑われる」人のうち、治療を受けていない割合は男性で24.6%、女性で19.2%にのぼります。つまり、治療が必要な方の約4〜5人に1人は、何らかの理由で治療を受けていないのが現状です。あなたは、決して一人ではありません。
| 治療から遠ざかりやすい方の傾向 | 具体的な状況の例 |
|---|---|
| 自覚症状がほとんどない方 | 血糖値が高くても痛みやかゆみがないため、「まだ大丈夫」と考えてしまいがちです。 |
| お仕事などで多忙な方 | 日々の業務に追われ、定期的な通院や生活習慣の見直しが後回しになります。 |
| 真面目で完璧を目指す方 | 「食事も運動も完璧に」と気負いすぎ、疲れて燃え尽きてしまうことがあります。 |
当院でも、数ヶ月ぶり、あるいは10年ぶりに治療を再開される方もいらっしゃいます。治療を再開し、血糖コントロールの改善を目指すことで、合併症への不安を和らげていくことが期待できます。大切なのは「今、この瞬間から始める」というお気持ちです。
受診時にどう話せばいい?医師に伝えるべき3つのポイント
久しぶりの受診では、「何から、どう話せば良いのだろう」と戸惑うかもしれません。上手に話そうと身構える必要はありません。まず、以下の3つのポイントについて、わかる範囲で教えていただけますでしょうか。もしよろしければ、事前にメモに書いて持参するのも良い方法です。
【受診時に伝えてほしい3つのこと】
- 治療を受けていない期間と、その理由
- 「最後に病院にかかったのは、〇年くらい前です」
- 「仕事が忙しく、通えなくなってしまいました」
- 「症状がなかったので、大丈夫だと思っていました」 など、正直にお話しいただくことで、今後の治療計画を立てる上で非常に参考になります。
- 現在の体調で、気になっていることや不安なこと
- 「最近、以前よりものどが渇き、トイレが近くなりました」
- 「足先がピリピリとしびれる感じがします」
- 「視力が落ちてきた気がして、目の合併症が心配です」 など、どんな些細な変化でも構いません。ご自身が感じている不安も、大切な情報です。
- 今後の治療に対するご希望や、心配なこと
- 「仕事が不規則なので、続けやすい治療法はありますか?」
- 「食事で具体的に何を気をつければ良いか知りたいです」
- 「医療費はどのくらいかかりますか?」 など、あなたの生活スタイルや価値観に合わせた治療を一緒に考えていきましょう。
もし言葉に詰まっても、こちらから一つひとつ丁寧にお尋ねしますのでご安心ください。まずは、あなたの想いを聞かせていただくことから、新しい治療を一緒にスタートさせましょう。
糖尿病を放置すると、体に何が起こるのか
治療から足が遠のいてしまい、「自分の体は今、どうなっているのだろう」とご不安に感じていらっしゃるかもしれません。
糖尿病は、初期にはほとんど自覚症状がないため「サイレントキラー(静かなる殺し屋)」とも呼ばれています。しかし、症状がないからといって、体の中で問題が起きていないわけではありません。
血糖値が高い状態が続くと、血液は粘り気の強い状態になり、全身の血管の内壁を少しずつ傷つけていきます。この血管へのダメージが、気づかないうちに様々な合併症を静かに進行させてしまうのです。
まずは、体に何が起こりうるのかを正しく知ることから、一緒に始めていきましょう。

放置期間で考える合併症のリスク(1年・5年・10年)
糖尿病の治療を中断している期間が長くなるほど、高血糖による血管へのダメージは蓄積し、合併症のリスクは着実に高まっていきます。
もちろん、血糖値の状態や生活習慣、もともとの体質による個人差はありますが、ここでは一般的なリスクの目安を期間ごとにお伝えします。ご自身の状況と照らし合わせながらご確認ください。
| 放置期間 | 体の中で起こりうること |
|---|---|
| 1年程度 | 自覚できる症状はほとんどないかもしれません。しかし、血液検査をすれば、血糖コントロールの指標であるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー:過去1〜2ヶ月の血糖値の平均)は、悪化している可能性が高いでしょう。この段階では、血管の内側で静かにダメージが蓄積し始めています。 |
| 5年程度 | 細い血管が傷つくことで起こる「3大合併症」の初期変化が出始める可能性が高まります。例えば、足先のしびれ(神経障害)、尿の細かな泡立ち(腎症のサインである蛋白尿)、目のかすみ(網膜症)などです。また、太い血管の動脈硬化も進行し、心筋梗塞や脳卒中のリスクも上がり始めます。 |
| 10年以上 | 3大合併症がはっきりと形になって現れ、生活に支障をきたす可能性が高まります。視力が著しく低下して失明に至ったり(網膜症)、腎臓の機能が低下して週に数回の人工透析が必要になったり(腎症)、足の感覚が麻痺して潰瘍や壊疽(えそ)を起こし、最悪の場合は足を切断することになったり(神経障害)します。 |
これはあくまでも一般的な経過ですが、放置する期間が長引くほど、深刻な事態に至る可能性が高まることはご理解いただけるかと思います。
今からでも決して遅くない理由と、治療で改善できること
「もう何年も放置してしまったから手遅れだ…」と、諦めにも似た気持ちになっていらっしゃるかもしれません。
しかし、決してそのようなことはありません。この記事を読んで受診を考え始めた「今」こそが、未来のあなたの健康を取り戻すための最良のタイミングです。
【今からでも治療を始めるべき3つの理由】
- 合併症の進行を食い止め、遅らせることができる 適切な治療で血糖コントロールを再開すれば、合併症がさらに悪化するのを防いだり、その進行速度を緩やかにしたりすることが十分に可能です。
- 初期の合併症は改善も期待できる 特に、神経障害のしびれや、腎症の初期段階である微量アルブミン尿などは、血糖値を良好に保つことで症状が軽快したり、数値が改善したりするケースも少なくありません。
- 命に関わる病気のリスクを減らすことにつながります 血糖コントロールは、心筋梗塞や脳卒中といった、命に直結する深刻な病気を予防することに繋がります。これは、ご自身の健康寿命を延ばす上で極めて重要です。
治療を再開することで、具体的に以下のような改善が期待できます。過去を悔やむのではなく、これから得られるメリットに目を向けてみましょう。
- 血糖値やHbA1cの数値が改善する
- 高血糖による、だるさ、喉の渇き、頻尿といった不快な症状がなくなる
- 合併症の発症や進行に対する不安が和らぐ
- 健康的な生活を取り戻し、仕事や趣味を長く楽しめるようになる
大切なのは、今日この日から何ができるかを考え、行動に移すことです。私たちは、あなたの再スタートを全力でサポートします。
放置が招く3大合併症(網膜症・腎症・神経障害)の初期サイン
糖尿病の合併症の中でも、特に全身の細い血管が障害されることで起こる「網膜症」「腎症」「神経障害」は、3大合併症と呼ばれています。
これらの合併症は、初期には自覚症状がほとんどないため、気づいた時にはかなり進行していることも少なくありません。以下のようなサインがないか、ご自身の体をチェックしてみてください。
【目のサイン:糖尿病網膜症】 目の奥にある網膜という光を感じるフィルム部分の血管が傷つき、視力低下や、最悪の場合は失明の原因になります。
- □ 目がかすむ、視力が落ちた気がする
- □ 蚊のような黒い点がフワフワと飛んで見える(飛蚊症)
- □ 視界にカーテンがかかったように、一部が見えにくい
【腎臓のサイン:糖尿病腎症】 血液をろ過して老廃物を尿として排泄する腎臓の機能が低下します。進行すると、老廃物を体から出せなくなり、人工透析が必要になります。
- □ 尿が異常に泡立つ(ビールのように細かく、なかなか消えない泡)
- □ 靴下の跡がくっきり残るなど、足や顔がむくみやすい
- □ 理由もなく体がだるく、常に疲れを感じる
- □ 健康診断などで貧血を指摘された
【神経のサイン:糖尿病神経障害】 手足の末梢神経を中心に、全身の神経に障害が起こります。痛みを感じにくくなるため、怪我や火傷に気づかず重症化する危険があります。
- □ 足の裏や指先がジンジン、ピリピリとしびれる
- □ 足の裏に一枚、紙が貼り付いているような違和感がある
- □ 足の感覚が鈍くなり、お風呂の温度が分かりにくい
- □ 立ち上がった時にクラっとする(立ちくらみ)
- □ 頑固な便秘や、逆に下痢を繰り返す
これらのサインが一つでも当てはまる場合は、合併症が始まっている可能性があります。しかし、症状がなくても、水面下で病状が進行していることも十分に考えられます。
だからこそ、症状の有無にかかわらず、まずは現在の体の状態を検査で正確に把握することが何よりも重要なのです。
久しぶりの受診、何をする?治療再開へのステップ
勇気を出して、再び治療への一歩を踏み出そうとされていることと思います。しかし、久しぶりの受診では「何をされるのだろう」「時間はどのくらいかかるのか」など、たくさんの不安がよぎりますよね。
ご安心ください。私たちはあなたの過去を責めるのではなく、これからの健康な未来を一緒に作るためのパートナーです。ここでは、受診当日の具体的な流れと、あなただけの治療計画をどう立てていくのかを、一つひとつ丁寧にご説明します。

ステップ1:受診当日の流れと検査内容を具体的に解説
久しぶりの受診で最も大切なのは、現在のあなたの体の状態を正確に把握することです。そのためにいくつか検査を行いますが、何のために行うのかをご説明しながら進めますので、リラックスして臨んでください。
【受診当日の基本的な流れ(所要時間の目安:1時間〜1時間半)】
- 受付と問診票の記入 これまでの治療歴や中断期間、気になっている症状などを記入します。
- 問診と診察 問診票をもとに、生活習慣や治療を中断されたご事情を伺います。これは、あなたに最適な治療法を見つけるための大切な対話の時間です。また、血圧測定のほか、足の状態(神経障害の兆候がないか)なども丁寧に診察します。
- 検査(採血・採尿) 現在の血糖コントロール状態や、合併症が始まっていないかを調べます。
- 結果説明と治療方針の相談 当日わかる範囲の検査結果をお伝えし、今後の治療について一緒に話し合います。
【主な検査内容と、そこからわかるあなたの体のこと】
| 検査の種類 | 主な検査項目 | この検査で何がわかる? |
|---|---|---|
| 血液検査 | HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー) | 過去1〜2ヶ月間の血糖コントロール状態の平均点がわかります。いわば「血糖値の通信簿」のようなもので、治療目標を立てる上で最も重要な指標です。 |
| 血糖値 | 採血した「今この瞬間」の血糖の高さを調べます。食後か空腹時かで数値は変動します。 | |
| 肝機能・腎機能・脂質(コレステロールなど) | 糖尿病は血管の病気です。動脈硬化のリスクや、肝臓・腎臓といった大切な臓器への負担がないかを確認し、合併症のリスクを総合的に評価します。 | |
| 尿検査 | 尿糖 | 血糖値が一定以上に高くなると、尿の中に糖が漏れ出てきます。血糖コントロールの状態を知る手がかりの一つです。 |
| 尿たんぱく・尿アルブミン | 糖尿病による腎臓の合併症(腎症)の、ごく初期のサインを捉えるための非常に重要な検査です。症状が出るずっと前から、腎臓のダメージを発見できます。 |
これらの検査結果は、いわばあなたの体の「現在地」を示す地図のようなものです。この地図をもとに、これからどの道を進んでいくかを一緒に考えていきましょう。
ステップ2:あなたの生活に合わせた無理のない治療計画の立て方
検査で体の状態を把握したら、次はいよいよ治療計画を立てていきます。私たちは、医学的な理想を一方的に押し付けることはありません。
あなたの仕事や生活リズム、食の好み、そして何より「これなら続けられそう」というお気持ちを最優先します。治療の主役は、あなた自身です。
治療の基本は**「食事療法」「運動療法」「薬物療法」**の3本柱ですが、全てを完璧に始める必要はありません。
- 食事療法 「あれもダメ、これもダメ」といった厳しい制限から始めるわけではありません。まずは「野菜や汁物から先に食べてみる」「甘い飲み物を週に数回、お茶に変えてみる」など、今の食生活にプラスアルファできる簡単な工夫から一緒に探しましょう。
- 運動療法 わざわざジムに通ったり、毎日ランニングをしたりする必要はありません。「エレベーターを階段に変えてみる」「テレビのCM中に足踏みをしてみる」など、日常生活の中に無理なく組み込める運動で十分です。継続することが何より大切です。
- 薬物療法 食事や運動だけでは血糖コントロールが難しい場合や、血糖値が著しく高い場合には、お薬の力を借ります。最近は、週1回の服用で済む薬や、体重を減らす効果が期待できる薬など、様々な選択肢があります。必ずしもすぐにインスリン注射が必要になるわけではありませんのでご安心ください。もしインスリンを使う場合でも、それは弱ったすい臓を休ませてあげるための有効な手段です。あなたにとって最適な薬を、相談しながら決めていきましょう。
治療目標も、あなたの年齢や合併症の有無などを考慮して個別に設定します。「まずはHbA1cを7%未満に」「次の受診までに体重を1kg減らしてみる」など、具体的で達成可能な目標を立て、一つひとつクリアしていく喜びを分かち合いながら、二人三脚で歩んでいきたいと考えています。
まとめ
糖尿病の治療を中断してしまい、ご自身を責めたり、将来への不安を抱えたりしているかもしれません。 しかし、この記事でお伝えしたかったのは、決して一人で悩まないでほしいということです。
大切なのは過去ではなく「これからどうしたいか」です。 私たちはあなたの味方であり、治療から離れていた事情を理解し、再び向き合おうとするその勇気を心から尊重します。
今から治療を再開すれば、合併症の進行を食い止め、健やかな未来を取り戻すことは十分に可能です。 この記事を読んでくださったことが、その大切な第一歩です。 どうぞ安心して、まずはあなたの今の気持ちと体の状態を聞かせに、相談にいらしてください。 一緒に、無理なく続けられる計画を考えていきましょう。
