甲状腺とは?働き・場所・役割を医師が徹底解説
甲状腺とは?働き・場所・役割を医師が徹底解説
「最近、なんだか妙に疲れやすい」「理由もないのに体重が大きく変動する」。その原因不明の不調、年齢やストレスのせいだと諦めていませんか?実は、首元にある重さわずか15gほどの小さな臓器、「甲状腺」がサインを送っているのかもしれません。
蝶のような形をしたこの甲状腺は、全身のエネルギー代謝を司る、いわば「元気の発電所」。この働きが少し乱れるだけで、心臓のドキドキや気分の落ち込み、イライラといった心身の不調を引き起こします。症状が更年期やうつ病と似ているため、見過ごされやすいのが特徴です。
この記事では、専門医が甲状腺の働きから心身への影響までを徹底解説します。ご自身の体のことを正しく理解し、長引く不調の根本原因を見つけるための第一歩を踏み出しましょう。
甲状腺の基本機能と全身への役割
「最近、なんだか妙に疲れやすい」 「特に理由もないのに体重が大きく変動する」 「気分が落ち込んだり、イライラしたりと感情の波が激しい」
このような原因がはっきりしない体調不良は、もしかしたら首にある「甲状S状腺」という臓器の働きが関係しているかもしれません。
甲状腺は、私たちが毎日を元気に過ごすためのエネルギーを作り出す、いわば「全身の元気の発電所」を調整する大切な役割を担っています。
ここでは、甲状腺の基本的な働きや、私たちの体にどのような影響を与えているのかを、専門医の視点から詳しく解説します。ご自身の体のことを正しく知ることが、不安を解消するための第一歩です。一緒に学んでいきましょう。

甲状腺はどこにある?体の新陳代謝を司る重要な臓器
甲状腺は、首の前側、のどぼとけのすぐ下あたりに位置しています。 蝶が羽を広げたような形をしており、気管に張り付くように存在します。
大きさは4〜5cmほど、重さは15〜20g程度しかありません。 非常に柔らかい臓器なので、普段は外から触ってもほとんど分かりません。
この小さな臓器の主な役割は、「甲状腺ホルモン」を血液中に分泌することです。 甲状腺ホルモンは、体中の細胞の活動を活発にする「新陳代謝」を調節する働きがあります。これは、車で例えるなら、全身の細胞のエンジン回転数をコントロールするアクセルのようなものです。
また、甲状腺には甲状腺ホルモンを作る細胞(濾胞細胞)のほかに、「C細胞」という別の細胞も存在します。 近年の研究で、このC細胞が分泌する「カルシトニン」というホルモンが、骨のカルシウム量を調節し、骨の健康維持に重要な役割を果たしている可能性が示唆されています。
このように甲状腺は、全身のエネルギー代謝だけでなく骨の健康にも関わるなど、私たちの体が正常に機能するために、複数の重要な役割を担っているのです。
甲状腺ホルモンの種類と具体的な働き(T3・T4)
甲状腺から分泌されるホルモンには、主に2種類あります。 「サイロキシン(T4)」と「トリヨードサイロニン(T3)」です。
甲状腺で作られるホルモンの約9割はT4ですが、実際に体中の細胞に強く作用するのはT3です。T4は、血液に乗って肝臓などに運ばれ、そこでより活性の高いT3に変換されてから、その力を発揮します。
これらの甲状腺ホルモンは、私たちの体全体に影響を及ぼす多彩な働きを持っています。
甲状腺ホルモンの主な働き
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全身の新陳代謝を活発にする 全身の細胞に働きかけてエネルギー消費を促し、体温を適切に保ちます。
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心臓や消化器の活動を調整する 心臓の拍動数や血圧、胃や腸の動きをコントロールします。
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脳や神経系の働きを維持する 精神状態を安定させたり、神経の伝達を正常に保ったりします。
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子どもの成長と発達を促す 特に胎児期から思春期にかけて、脳や骨格が正常に発育するために不可欠です。
このように甲状腺ホルモンは、私たちが生命を維持し、活動的に生活を送るために欠かせません。まさに、全身の調和を保つオーケストラの指揮者のような存在なのです。
脳からの指令でホルモン量が決まる仕組み
甲状腺ホルモンの量は、多すぎても少なすぎても体に不調をきたします。 そのため、常に適切な範囲に保たれるよう、精密にコントロールされています。
この絶妙な調整を行っているのが、脳にある「視床下部」と「下垂体」です。 この仕組みは、会社の組織に例えると分かりやすいでしょう。
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社長(視床下部)からの指示 血液中の甲状腺ホルモンが少ないと脳の視床下部が感知し、「甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)」を分泌します。
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部長(下垂体)への伝達 TRHが下垂体に届くと、今度は下垂体が「甲状腺刺激ホルモン(TSH)」を分泌します。
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現場(甲状腺)での生産 TSHが血流に乗って甲状腺に届くと、甲状腺は刺激を受けて甲状腺ホルモン(T4・T3)を作り、血液中に放出します。
逆に、血液中の甲状腺ホルモンが十分な量になると、その情報が視床下部と下垂体に伝わり、TRHとTSHの分泌が抑えられます。 この仕組みを「ネガティブ・フィードバック」と呼び、ホルモンが必要以上に作られないように自動で調整しています。
さらに最近の研究では、脳が甲状腺ホルモンの量を感知する「感受性」に個人差があることが分かってきました。この感受性のバランスが崩れると、血糖値のコントロールといった糖代謝にも影響を及ぼす可能性が示唆されています。
糖尿病専門医の立場から見ても、甲状腺機能の異常が血糖コントロールを不安定にさせることがあります。そのため、糖尿病の患者さんでは特に注意深く診ていく必要があるのです。
甲状腺の異常が心臓や精神状態に及ぼす影響
全身のアクセル役である甲状腺ホルモンのバランスが崩れると、特に心臓や精神面にさまざまな症状が現れやすくなります。
甲状腺ホルモンが過剰になる「甲状腺機能亢進症」では、全身の代謝が異常に高まり、体は常に全力疾走しているような状態に陥ります。
| 甲状腺機能亢進症でみられる症状の例 |
|---|
| 心臓への影響 |
| 精神状態への影響 |
一方、甲状腺ホルモンが不足する「甲状腺機能低下症」では、全身の代謝が低下し、体全体の活動が鈍くなります。
| 甲状腺機能低下症でみられる症状の例 |
|---|
| 心臓への影響 |
| 精神状態への影響 |
これらの症状は、更年期障害や自律神経失調症、うつ病など他の病気の症状と非常によく似ています。
そのため、「最近疲れているだけ」「年のせいだろう」と自己判断してしまいがちです。気になる症状が続く場合は、決して放置せず、一度専門の医療機関に相談することが大切です。
症状から考える甲状腺の病気 もしかして?と思ったら
「最近なんだか疲れやすい」「理由もなく体重が変わった」「気分が落ち込みがち…」
このような原因がはっきりしない体調の変化に、不安を感じていらっしゃるかもしれません。 もしかしたら、その不調は甲状腺の働きに問題があるサインである可能性があります。
甲状腺の病気は、非常に多くの症状を引き起こすため、ご自身で判断するのは難しいものです。 しかし、これからご紹介する症状のサインを知っておくことで、病気の早期発見につながります。 ご自身の体と向き合うきっかけとして、一緒に確認していきましょう。

ホルモンが多すぎる時のサイン(バセドウ病など)
甲状腺ホルモンが過剰になると、全身の代謝が異常に活発になります。 体は常に全力疾走しているような状態になり、エネルギーを過剰に消費し続けます。 これを甲状腺機能亢進症と呼び、代表的な病気にバセドウ病があります。
ご自身の体調と照らし合わせ、当てはまるものがないかチェックしてみてください。
【甲状腺機能亢進症のセルフチェックリスト】
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全身の症状
- 暑がりになり、異常に汗をかくようになった
- 食事の量は変わらない、むしろ増えたのに体重が減っていく
- 常に体がだるく、疲れやすい
- 微熱が続くことがある
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心臓や呼吸器の症状
- 安静にしていても心臓がドキドキする(動悸)
- 脈が1分間に100回以上になることがある(頻脈)
- 少し動いただけでも息切れがする
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精神・神経の症状
- ささいなことでイライラし、怒りっぽくなった
- じっとしていられず、落ち着きがない
- 手や指が細かくふるえる
- 寝つきが悪い、夜中に目が覚める
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その他の特徴的な症状
- 首の前側(のど仏の下あたり)が腫れている
- 目が前に出てきたように感じる(眼球突出)
- 便が緩くなったり、排便の回数が増えたりする
- 女性の場合、月経の量が減ったり、周期が乱れたりする
これらの症状が複数当てはまる場合は、放置せずに一度専門医に相談することが大切です。
ホルモンが少なすぎる時のサイン(橋本病など)
甲状腺ホルモンが不足すると、代謝が低下して全身の活動が鈍くなります。 まるで、体のエネルギーが枯渇してしまい、常に省エネモードで動いているような状態です。 これを甲状腺機能低下症と呼び、代表的な病気に橋本病(慢性甲状腺炎)があります。
次のようなサインがないか、ご自身の変化を振り返ってみましょう。
【甲状腺機能低下症のセルフチェックリスト】
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全身の症状
- 寒がりになり、手足がいつも冷たい
- 以前より汗をかきにくくなった
- 食欲がないのに体重が増える、むくみやすい
- 常に眠く、体がだるくて気力が出ない
- すべての動作がゆっくりになる
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精神・神経の症状
- 物忘れが多くなり、考えがまとまらない
- 集中力が続かず、ぼーっとしてしまう
- 気分が落ち込み、何事にも興味がわかない
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皮膚・毛髪の症状
- 肌がカサカサに乾燥する
- 髪の毛が抜けやすくなる
- 眉毛の外側が薄くなる
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その他の特徴的な症状
- 顔や手足がむくむ(特に朝、指で押しても跡が残りにくい)
- 声がかすれたり、低い声になったりする
- 頑固な便秘に悩んでいる
- 女性の場合、月経の量が多くなったり、長く続いたりする
これらの症状は非常にゆっくりと進行するため、ご自身では気づきにくく、年齢や疲れのせいだと思い込んでしまう方も少なくありません。気になる症状があれば、ぜひご相談ください。
首の腫れやしこりで気づく病気(甲状腺腫瘍など)
甲状腺ホルモンの量に異常がなくても、甲状腺自体に「しこり」や「腫れ」ができることがあります。 これを甲状腺腫瘍と呼び、多くは体に害のない良性ですが、中には悪性腫瘍(甲状腺がん)の可能性もあります。
- 首の正面、のど仏の下あたりにしこりを触れる
- 鏡で見ると首の一部が腫れている
- ものを飲み込む時に、つかえる感じや違和感がある
- 声がかすれる状態が続いている
- 首に圧迫感がある
甲状腺の腫瘍には様々な種類があり、中には「硝子化索状腫瘍(HTT)」のような非常に稀で、他の病気との区別が難しいものもあります。多くは中年女性に見つかり、症状がないことも少なくありません。
また、悪性腫瘍の場合、がん細胞そのものだけでなく、その周りを取り巻く環境が、がんの進行に影響を与えることが近年の研究でわかってきました。 特に「がん関連線維芽細胞(CAF)」という細胞が、がんの増殖や治療への抵抗性を高める可能性が指摘されています。
しこりに気づいた際は、その性質を専門的にきちんと調べることがとても重要です。 自己判断せず、必ず医療機関を受診してください。
自宅でできる首のセルフチェック方法
ご自宅で簡単にできる首のセルフチェック方法をご紹介します。 月に1回程度、お風呂上がりなどリラックスしている時に行ってみてください。
【セルフチェックの手順】
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鏡の前に立つ
- 首全体がよく見えるように、手鏡を使うか、洗面台などの鏡の前に立ちます。
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少し上を向く
- あごを少し上げ、首の前側を伸ばすようにします。甲状腺の位置(のど仏の下、左右の鎖骨の間のくぼみのすぐ上あたり)を確認しやすくするためです。
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唾を飲み込んで観察する
- 水を少し口に含んでから、ごくんと飲み込みます。飲み込むと、甲状腺は上下に動きます。その動きに合わせて、目で見て不自然な腫れや膨らみがないかを確認します。
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優しく触って確認する
- 再び唾や水を飲み込みながら、甲状腺が動くタイミングで、指の腹を使って優しく触ります。左右を比べながら、しこりや硬い部分、痛みがないかを確認しましょう。
【注意点】 このチェックはあくまで簡易的なものです。強く押しすぎないように注意してください。 少しでも気になる腫れやしこり、違和感があれば、すぐに専門の医療機関を受診してください。
更年期障害やうつ病と間違えやすい症状との違い
甲状腺の病気が引き起こす症状は非常に多彩で、他の病気の症状とよく似ています。 特に、女性ホルモンのバランスが乱れる「更年期障害」や、気分の落ち込みが続く「うつ病」と間違われることが少なくありません。
| 症状 | 甲状腺機能亢進症 | 甲状腺機能低下症 | 更年期障害 | うつ病 |
|---|---|---|---|---|
| 動悸・ほてり・多汗 | ◎ | ◎ | ||
| 疲れやすさ・だるさ | ○ | ◎ | ○ | ◎ |
| イライラ・不安感 | ◎ | ◎ | ○ | |
| 気力の低下・無気力 | ◎ | ○ | ◎ | |
| 体重の変化 | 減少 | 増加 | 増加傾向 | 変化あり |
| 首の腫れ | ○ | ○ | なし | なし |
| 物忘れ・集中力低下 | ○ | ○ | ○ |
(◎:特徴的な症状、○:見られることがある症状)
このように症状が重なっているため、ご自身で判断するのは非常に困難です。 甲状腺の病気と他の病気との大きな違いは、「首の腫れ」の有無です。 そして、血液検査で甲状腺ホルモンの値を調べることで、客観的に診断できる点も重要です。
また、糖尿病の専門医の立場から見ると、甲状腺ホルモンの乱れは血糖コントロールに影響を及ぼすこともあります。 そのため、糖尿病の治療がうまくいかない背景に、甲状腺の病気が隠れているケースも珍しくありません。
体調不良の原因がわからずに悩んでいる方は、甲状腺の病気の可能性も考えて、一度検査を受けてみることをお勧めします。 原因を正しく知ることが、つらい症状を改善するための第一歩です。
甲状腺の病気が心配な方へ 検査・治療・受診の流れ
「最近、疲れやすい」「急に体重が変わった」「首が腫れている気がする」など、ご自身の体調の変化から甲状腺の病気を心配されているかもしれませんね。
原因がわからない不調はとても不安なものです。 しかし、どのような流れで検査や治療が進むのかを事前に知ることで、その不安は少し和らぐはずです。
ここでは、受診する診療科の選び方から、具体的な検査内容、そして治療法の選択肢までを一つひとつ丁寧に解説していきます。 甲状腺の病気と向き合うためのステップを、一緒に確認していきましょう。

何科を受診すればよい?専門診療科の選び方
甲状腺の病気が疑われる場合、まず受診すべきなのは「内分泌内科」です。 内分泌内科は、ホルモンを作る臓器(これを内分泌腺と呼びます)の病気を専門に扱う診療科で、甲状腺はその代表的な臓器の一つです。
専門医が診断から治療、その後の経過観察までを一貫して担当します。 もし、お近くに内分泌内科がない場合は、まずはかかりつけの「内科」にご相談ください。 基本的な血液検査などを行い、必要であれば専門の医療機関を紹介してもらえます。
また、首のしこりや腫れが主な症状で、飲み込みにくさや声のかすれがある場合は、「耳鼻咽喉科」が最初の窓口になることもあります。
クリニックを選ぶ際のポイント
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甲状腺を専門とする医師が在籍しているか 専門的な知識と経験に基づいた診断が期待できます。
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血液検査や超音波検査が院内で受けられるか 検査から診断までがスムーズに進みます。
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検査結果や治療方針を分かりやすく説明してくれるか ご自身が納得して治療に取り組むために非常に重要です。
糖尿病の専門医の立場から見ると、甲状腺ホルモンの異常は血糖コントロールに影響を及ぼすことがあります。 そのため、糖尿病と甲状腺の両方を専門的に診られる医師であれば、より包括的な視点で健康をサポートできます。
クリニックで行う主な検査(血液検査・超音波検査)の内容とわかること
甲状腺の機能を正確に調べるためには、主に「血液検査」と「超音波(エコー)検査」の2つが行われます。 これらの検査を組み合わせることで、甲状腺の状態を詳しく知ることができます。
| 検査の種類 | 主な検査項目 | この検査でわかること |
|---|---|---|
| 血液検査 | 甲状腺ホルモン(FT3, FT4) 甲状腺刺激ホルモン(TSH) |
甲状腺の働きが活発すぎるのか(機能亢進症)、あるいは働きが低下しているのか(機能低下症)が客観的な数値でわかります。 |
| 自己抗体(TRAb, TPOAb, TgAb) | 体が自分自身の甲状腺を攻撃していないかを調べます。バセドウ病や橋本病といった、自己免疫が関わる病気の診断に役立ちます。 | |
| 超音波検査 | 甲状腺の大きさ、形、血流 しこり(結節)の有無、大きさ、性状 |
甲状腺全体が腫れていないか、しこりがないかを確認します。しこりがある場合、その見た目の特徴から良性か悪性かの大まかな見当をつけます。 |
超音波検査は、ゼリーを塗って器械を当てるだけで、痛みもなく体に負担の少ない安全な検査です。
しこりが見つかった場合、その性質を詳しく調べるために、しこりに細い針を刺して細胞を採る「穿刺吸引細胞診」という検査を行うことがあります。 甲状腺のしこりの中には、ごく稀に「硝子化索状腫瘍(HTT)」のように、他の病気との区別が非常に難しい特殊なタイプも存在します。 そのため、専門医による正確な診断がとても重要になるのです。
主な治療法(薬物療法・アイソトープ治療・手術)の選択肢
甲状腺の病気の治療法は、病気の種類や患者さん一人ひとりの状態に合わせて、最適なものが選択されます。 主な治療法には、薬物療法、アイソトープ(放射性ヨウ素)治療、手術の3つの柱があります。
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薬物療法
- 甲状腺機能亢進症(バセドウ病など) 甲状腺ホルモンの過剰な合成を抑える薬(抗甲状腺薬)を毎日服用します。
- 甲状腺機能低下症(橋本病など) 不足している甲状腺ホルモンを補う薬(甲状腺ホルモン薬)を服用します。
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アイソトープ(放射性ヨウ素)治療 放射線を出すヨウ素が入ったカプセルを飲む治療法です。ヨウ素が甲状腺に集まる性質を利用して、過剰に働く甲状腺の細胞だけを選択的に減らします。主にバセドウ病の治療で選択肢となります。
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手術 甲状腺の腫瘍(特にがんが疑われる場合)や、薬でコントロールが難しいバセドウ病、甲状腺が非常に大きくなって気管などを圧迫している場合に行われます。
特に甲状腺がんの治療においては、近年、がん細胞そのものだけでなく、その周囲の環境が治療効果に影響を与えることがわかってきました。 中でも「がん関連線維芽細胞(CAFs)」という細胞が、がんの増殖を助けたり治療への抵抗性を高めたりする可能性が指摘されています。 このような最新の知見をもとに、より効果的な治療法の開発が世界中で進められています。
治療にかかる期間や費用、日常生活での注意点(食事・運動)
治療にかかる期間は、病気の状態によって大きく異なります。 バセドウ病の薬物療法は、安定するまでに数年単位で続くことが多いです。 一方、橋本病でホルモン補充が必要な場合は、基本的に生涯にわたって服用を続けることになります。
治療費は、健康保険が適用されます。 また、病状によっては国の医療費助成制度を利用できる場合もありますので、詳しくは医療機関や自治体の窓口にご相談ください。
【日常生活での注意点】
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食事
- バセドウ病の方 治療開始後は、ヨウ素を過剰に含む食品(昆布、ひじき、のりなど)の大量摂取は控えるようにしましょう。
- 橋本病の方 基本的に厳しい食事制限は不要ですが、ヨウ素を含むサプリメントなどの過剰摂取には注意が必要です。 いずれの場合も、神経質になりすぎず、バランスの良い食事を心がけることが大切です。
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運動 治療によってホルモンバランスが安定すれば、基本的に運動の制限はありません。 ただし、治療の初期で動悸などの症状が強い時期は、激しい運動は避け、医師に相談しながら行うようにしましょう。
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その他 禁煙は非常に重要です。特にバセドウ病では、喫煙が病状を悪化させたり、眼の症状(甲状腺眼症)を引き起こしたり悪化させたりすることが知られています。
妊娠・出産と甲状腺の病気との付き合い方
甲状腺の病気をお持ちの女性にとって、妊娠や出産は大きな関心事だと思います。 結論から言うと、適切な治療と管理を続ければ、多くの方が安全に妊娠・出産を迎えることができます。
甲状腺ホルモンは、お母さんの健康はもちろん、お腹の赤ちゃんの脳や体が正常に発育するために不可欠なホルモンです。 そのため、妊娠を希望される場合は、妊娠前から主治医とよく相談し、甲状腺ホルモン値を安定させておくことが非常に重要になります。
妊娠中はホルモンバランスが変動しやすいため、通常よりもこまめに血液検査を行い、薬の量をきめ細かく調整していきます。 妊娠中や授乳中でも安全に服用できる薬がありますので、自己判断で服薬を中断することは絶対にしないでください。
また、産後は甲状腺の機能が変動しやすくなる「産後甲状腺炎」を発症することもあります。 出産後も定期的な検査を受け、体調の変化に気をつけていきましょう。 主治医と産婦人科医とが連携しながらサポートしていきますので、安心してご相談ください。
まとめ
今回は、全身の元気の発電所ともいえる「甲状腺」の働きや、不調のサインについて詳しく解説しました。 疲れやすさや体重の変化、気分の落ち込みといった日常的な不調の裏に、甲状腺の病気が隠れている可能性があることをお分かりいただけたかと思います。
これらの症状は更年期障害やうつ病とも似ているため、「年のせいかな」と見過ごされがちですが、自己判断は禁物です。甲状腺の病気は、血液検査などで原因をはっきりと特定し、適切な治療を受けられる病気です。
原因不明の体調不良が続く場合は、決して一人で悩まず、まずは内分泌内科などの専門医へ気軽に相談してみてください。正しい知識を持つことが、健やかな毎日を取り戻すための大切な第一歩になります。
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