自覚症状なく進行する糖尿病網膜症と眼科受診のタイミングを専門医が解説します|調布市の仙川駅で糖尿病治療なら|せたがや仙川クリニック|糖尿病内科・甲状腺内科・内科・アレルギー科

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医療コラム

自覚症状なく進行する糖尿病網膜症と眼科受診のタイミングを専門医が解説します|調布市の仙川駅で糖尿病治療なら|せたがや仙川クリニック|糖尿病内科・甲状腺内科・内科・アレルギー科

自覚症状なく進行する糖尿病網膜症と眼科受診のタイミングを専門医が解説します

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日本の成人の失明原因の上位を占める「糖尿病網膜症」。これは糖尿病と診断されたすべての方にとって、決して他人事ではない深刻な合併症です。この病気の最も恐ろしい点は、かなり進行するまで自覚症状がほとんどないこと。「まだ見えているから大丈夫」――その油断が、気づかないうちにあなたの視界を静かに奪っていくかもしれません。

しかし、ご安心ください。この病気は正しい知識を持ち、適切なタイミングで対策を講じれば、失明という最悪の事態を防ぐことが可能です。この記事では、なぜ症状なく進行するのかというメカニズムから、あなたの大切な眼を守るための具体的な検査・治療法まで、専門医が詳しく解説します。手遅れになる前に、正しい知識で未来の視力を守りましょう。

糖尿病網膜症とは?自覚症状がないまま失明に至るメカニズム

糖尿病網膜症は、糖尿病腎症、糖尿病神経障害とならぶ「糖尿病の3大合併症」の一つです。日本では緑内障に次いで成人の失明原因の上位を占めており、決して他人事ではない病気です。

この病気の最も怖い点は、かなり進行するまで自覚症状がほとんどないことです。「まだ見えているから大丈夫」と思っていても、気づかないうちに眼の中では深刻な変化が静かに起きている可能性があります。

しかし、どうかご安心ください。糖尿病網膜症は、早期に発見し、適切な治療を根気強く続けることで、失明という最悪の事態を防ぐことができる病気です。この記事で病気の仕組みを正しく理解し、あなたの大切な眼を守るための一歩を一緒に踏み出しましょう。

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なぜ糖尿病になると目に合併症が起きるのか

糖尿病で血糖値が高い状態が続くと、全身の血管、特に細い血管(毛細血管)が大きなダメージを受けます。眼の奥にある網膜(もうまく)は、光を感じるための神経細胞と、それに栄養を送る毛細血管がびっしりと張り巡らされた、非常にデリケートな組織です。

高血糖によって網膜の毛細血管が傷つくと、主に以下のような流れで病気が進行します。

  1. 血管が傷つき、詰まる
    高血糖による「酸化ストレス(体がサビつくような状態)」や炎症反応が、血管の壁を直接傷つけ、変形させたり詰まらせたりします。

  2. 網膜が酸欠になる
    血管が詰まると、網膜の細胞に十分な酸素や栄養が届かなくなり、網膜は深刻な酸欠・栄養不足に陥ります。

  3. 新生血管(しんせいけっかん)ができる
    網膜は酸欠を解消しようと、VEGF(血管内皮増殖因子)というSOS信号の物質を出して、新しい血管を急いで作ります。しかし、この新生血管は非常にもろく、破れやすい質の悪い血管です。

  4. 出血や網膜剥離が起こる
    もろい新生血管が破れると、眼の中(硝子体)で大出血が起こります。また、出血が治る過程でできる「かさぶた」のような膜(増殖組織)が網膜を引っ張り、網膜剥離を引き起こすことがあります。

最近の研究では、細胞同士が情報をやり取りする「エクソソーム」という微小なカプセルのような物質が、こうした一連の病気の進行に関わっていることもわかってきました。エクソソームが、病気を悪化させる悪い情報を細胞から細胞へと伝達している可能性があるのです。

「単純」「増殖前」「増殖」3つの進行ステージと見え方の変化

糖尿病網膜症は、その進行度によって大きく3つのステージに分けられます。ステージが進むほど治療が難しくなり、失明のリスクが高まっていきます。

進行ステージ 網膜の状態 主な自覚症状と見え方
単純網膜症
(初期)
・血管に小さなこぶ(毛細血管瘤)ができる
・小さな出血(点状・斑状出血)が見られる
・血管から漏れた成分がシミ(硬性白斑)になる
自覚症状はほとんどありません。
視力も良好なことが多く、この段階で自分で気づくことは困難です。
増殖前網膜症
(中期)
・血管の詰まりが広がり、網膜の酸欠が進行する
・新生血管が作られる準備段階に入る、危険な状態
目のかすみなどを感じることがありますが、まだ無症状の場合も多いです。
増殖網膜症
(末期)
・もろい新生血管が発生する
・新生血管が破れて出血(硝子体出血)する
・増殖組織が網膜を引っ張り、網膜剥離を起こす
飛蚊症(黒い点やゴミが見える)
急激な視力低下
・視野が欠ける(墨を流したように見えることも)

また、これらのステージとは別に、どの段階でも起こりうる「糖尿病黄斑浮腫(とうにょうびょうおうはんふしゅ)」という病態があります。これは、物を見る中心部分である「黄斑」がむくんでしまう状態で、網膜症の進行度とは関係なく、著しい視力低下の大きな原因となります。

飛蚊症やかすみ目…危険な自覚症状が出たときの緊急度

糖尿病網膜症は症状が出にくい病気ですが、以下のような症状が現れた場合は、病状がかなり進行しているサインかもしれません。緊急度を理解し、すぐに行動することが大切です。

【危険な自覚症状チェックリスト】

  • 飛蚊症(ひぶんしょう)
    視界に黒い点やゴミ、虫のようなものが浮かんで見えます。急に数が増えたり、墨を流したように見えたりすることもあります。

    • 原因:網膜の新生血管が破れ、眼の中に出血した血液の塊が影として見えている可能性が高いです。
    • 緊急度:高。出血が起きている証拠です。放置すると、より大きな出血や網膜剥離につながる危険があります。症状に気づいたら、すぐに眼科を受診してください。
  • 目のかすみ(霧視)
    全体が白くぼやけたり、すりガラス越しに見ているように感じたりします。

    • 原因:糖尿病黄斑浮腫や、少量の硝子体出血などが考えられます。
    • 緊急度:中〜高。特に見え方が急に変化した場合は要注意です。数日のうちに眼科で原因を調べてもらいましょう。
  • 急激な視力低下
    突然、文字が読めなくなったり、人の顔が分からなくなったりします。視野の一部がカーテンで隠されたように見えなくなることもあります。

    • 原因:大量の硝子体出血や、網膜の中心部におよぶ網膜剥離が起きている可能性があります。
    • 緊急度:極めて高い。失明に直結する危険な状態です。ためらわずに、直ちに眼科を受診してください。

これらの症状は、いずれも眼からの「SOSサイン」です。症状が出てから治療を開始しても、視力の回復が難しい場合もあります。だからこそ、症状が出る前の定期的な検査が何よりも重要なのです。

血糖コントロールが良くても網膜症が進行するケースとは

「毎日血糖値を測って、HbA1cの値も安定しているから大丈夫」と思っていませんか?もちろん、良好な血糖コントロールは網膜症の予防・進行抑制の基本であり、最も重要です。しかし、それでも網膜症が進行してしまうケースがあることを知っておく必要があります。

  1. 過去の高血糖の影響(メタボリック・メモリー)
    血管は、過去に受けたダメージを「記憶」しています。糖尿病と気づく前の期間や、治療を始めたばかりでコントロールが不安定だった時期の高血糖の影響が、数年経ってから網膜症として現れることがあるのです。

  2. 増殖網膜症まで進行している場合
    病状が「増殖網膜症」のステージまで進むと、網膜の酸欠状態が非常に深刻になります。すると、その時点での血糖値の状態とはあまり関係なく、網膜症が悪化していく悪循環に陥ってしまうことがあります。

  3. 血糖値の急激な改善
    意外に思われるかもしれませんが、長年高血糖だった方が急激に血糖値を下げると、一時的に網膜症が悪化することが報告されています。これは血流の急な変化に、もろくなった血管が対応できないためと考えられています。治療は医師の指導のもと、緩やかに行うことが大切です。

  4. 血圧や脂質の管理不足
    高血圧や脂質異常症も、血管を傷つける大きな要因です。血糖値が良くても、血圧やコレステロール値が高い状態が続けば、網膜症が進行するリスクは高まります。眼を守るためには、血糖・血圧・脂質を総合的に管理することが不可欠です。

これらの理由から、「今の血糖値が良いから安心」とは決して言い切れません。糖尿病と診断されたら、症状がなくても必ず定期的に眼科を受診し、専門医によるチェックを受けるようにしましょう。

早期発見の鍵「眼底検査」と具体的な治療法

糖尿病網膜症は、自覚症状がないまま静かに進行していくことが多い病気です。しかし、怖い病気ではありますが、決して打つ手がないわけではありません。

大切なのは、症状が出る前に眼の状態を正確に把握し、必要なタイミングで適切な治療を始めることです。そのために欠かせないのが「眼底検査」です。ここでは、検査の具体的な内容や、進行度に応じた治療法について、一つひとつ丁寧に解説していきます。ご自身の眼を守るために、一緒に知識を深めていきましょう。

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眼底検査の具体的な流れ、痛み、費用、検査後の注意点

眼底検査は、眼の奥にある網膜や血管の状態を直接観察するための、非常に重要な検査です。糖尿病網膜症の早期発見には不可欠ですが、「痛そう」「時間がかかりそう」といった不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。安心して検査を受けていただくために、具体的な流れや注意点をご説明します。

【眼底検査の主な流れ】

  1. 基本的な検査
     まずは視力や眼圧を測定し、眼の基本的な機能を確認します。
  2. 散瞳薬(さんどうやく)の点眼
     眼の奥(眼底)を隅々まで観察しやすくするために、瞳孔(ひとみ)を広げる目薬を使います。点眼後、薬の効果が出るまで15〜30分ほど安静にして待ちます。
  3. 眼底の診察・撮影
     医師が専用のレンズや機械を使って、網膜の血管や出血、むくみの有無などを詳しく観察します。同時に、眼底カメラで写真を撮影し、状態を客観的な記録として残します。

【痛み・費用・所要時間について】

  • 痛み
     検査自体に痛みはほとんどありません。散瞳薬の影響で、一時的に光をまぶしく感じることがあります。
  • 費用
     健康保険が適用されます。3割負担の場合、初診で3,000円〜5,000円程度が目安です。ただし、同時に行う検査によって変動します。
  • 所要時間
     散瞳薬が効くまでの待ち時間も含め、全体で1時間程度かかるのが一般的です。時間に余裕をもって受診しましょう。

【検査後の注意点チェックリスト】
散瞳薬の影響は、個人差はありますが4〜6時間ほど続きます。その間は以下のような点にご注意ください。

  •  ピントが合いにくく、視界がぼやける
  •  光を非常にまぶしく感じる
  •  車やバイク、自転車の運転は絶対にしない
    (視界がぼやけ、光が通常より眩しく見えるため、信号や標識の確認が困難になり大変危険です)
  •  公共交通機関の利用や家族の送迎を検討する
  •  サングラスや帽子を持参すると帰宅時のまぶしさを和らげられる

OCT(網膜断層検査)で何がわかるのかを実際の画像で解説

眼底検査とあわせて、OCT(光干渉断層計)という検査を行うことが増えています。眼底検査が網膜を「地図」のように平面で見るのに対し、OCTは地層を調べるように網膜の「断面」を観察する検査です。

この検査により、通常の眼底検査だけではわからない網膜のむくみや厚みの変化を、ミクロン単位(1000分の1ミリ)で詳細に捉えることができます。

【OCT検査でわかること】

  • 糖尿病黄斑浮腫の正確な診断
     視力に最も重要な「黄斑」という中心部分のむくみを正確に診断できます。黄斑浮腫は、網膜症のどのステージでも起こりうる、視力低下の大きな原因です。
  • 網膜の厚みの客観的な評価
     網膜の厚さを数値で測定できるため、治療によってむくみがどれくらい改善したかを客観的に評価できます。
  • 網膜の構造変化の早期発見
     新生血管から伸びた増殖膜が網膜を引っ張っていないかなど、失明につながる立体的な構造の異常を早期に発見できます。

下の画像はOCTの検査画像の一例です。

(画像挿入想定)
【左:正常な網膜の断面図】
網膜がきれいな層構造を保ち、物を見る中心部がなだらかにくぼんでいます。

【右:黄斑浮腫がある網膜の断面図】
中心部が水ぶくれのように腫れ上がり(浮腫)、層の構造が乱れています。この状態では、物がゆがんで見えたり、視力が著しく低下したりします。

このようにOCTを用いることで、視力低下の原因を正確に突き止め、治療方針の決定や治療効果の判定に役立てることができます。

レーザー、硝子体注射、硝子体手術…各治療法のメリット・デメリット

糖尿病網膜症の治療は、病気の進行度(ステージ)によって異なります。どの治療法にも利点と注意点があり、医師は患者さんの眼の状態を総合的に判断して最適な方法を選択します。ここでは代表的な3つの治療法について、それぞれの特徴を解説します。

治療法 主な対象ステージ メリット デメリット・注意点
レーザー
光凝固術
増殖前網膜症
増殖網膜症
・新生血管の発生や成長を抑え、病気の進行を防ぐ
・外来での治療が可能
・視力を回復させる治療ではない(悪化を防ぐ守りの治療)
・治療範囲によっては視野が少し狭くなることがある
・治療中に軽い痛みを感じることがある
抗VEGF薬
硝子体注射
糖尿病黄斑浮腫
増殖網膜症
・黄斑のむくみを改善し、視力向上が期待できる
・新生血管の活動性を抑える
・早期に行うことで硝子体手術を回避できる可能性
・効果が永続的ではなく、複数回の注射が必要
・ごく稀に感染症などの合併症リスクがある
・従来の薬物投与法には副作用等の課題も指摘されている
硝子体手術 重度の硝子体出血
牽引性網膜剥離
・眼の中の出血や濁りを取り除き、視力改善を目指せる
・網膜剥離を元に戻すことができる、根本的な治療
・入院が必要で、身体への負担が大きい
・白内障の進行や感染症などのリスクがある

近年、特に抗VEGF薬硝子体注射の有効性が注目されています。これは、網膜の酸欠によって発生するVEGF(血管内皮増殖因子)という、悪い血管を増やす物質の働きを直接抑える薬です。

最近の報告では、重度の硝子体出血を起こした場合でも、早期にこの注射治療を行うことで、より身体的負担の大きい硝子体手術を避けられる可能性があることもわかってきました。

ただし、現在の注射による治療は、薬の効果が一定期間で薄れるため複数回の投与が必要になる点や、ごく稀な感染症のリスクといった課題もあります。そのため世界中の研究者が、より負担が少なく効果が長続きする、マイクロニードル(微細な針)を用いた薬の投与方法など、新しい治療法の開発を進めています。

治療で視力は回復するのか?ステージ別の回復見込み

治療を始めるにあたり、「視力は元に戻るのか」という点は、誰もが最も気になることだと思います。残念ながら、一度傷ついてしまった網膜の神経細胞を完全に元通りにすることは難しく、治療の第一目標は「現在の視力を守り、これ以上の悪化を防ぐこと」になります。

しかし、病状によっては視力の回復が期待できるケースもあります。

  • 単純網膜症の段階
     この段階では、眼科的な治療よりもまず血糖コントロールが最優先です。食事療法や運動療法、内服薬などで血糖値を安定させることで、網膜の小さな出血などが自然に改善することもあります。
  • 増殖前網膜症の段階
     レーザー治療が中心となります。この治療は、将来の深刻な視力低下を防ぐための「予防的」な意味合いが強いものです。治療によって視力が上がることは基本的にはありません。今の視力を維持するために大切な治療だとご理解ください。
  • 増殖網膜症の段階
    • 黄斑浮腫による視力低下の場合
       抗VEGF薬の硝子体注射が非常に有効です。むくみが引くことで、視力が改善する可能性は十分にあります。
    • 硝子体出血や網膜剥離の場合
       硝子体手術を行います。眼の中の出血を取り除いたり、剥がれた網膜を元に戻したりすることで、視力が大きく回復することもあります。ただし、網膜そのもののダメージが大きい場合は、回復には限界があります。

どのステージであっても、治療の開始が早ければ早いほど、良好な視力を維持できる可能性は高まります。自覚症状がない段階から定期的に眼科を受診し、ご自身の眼の状態を把握しておくことが、何よりも大切なのです。

糖尿病と診断されたら考えるべき眼科受診と生活の備え

糖尿病と診断されたとき、食事や運動、お薬のことなど、考えなければならないことが多く、不安に感じていらっしゃるかもしれません。日々の生活の中で血糖値を意識することは、もちろん非常に大切です。

それに加えて、ぜひ知っておいていただきたいのが「眼の健康」を守るための備えです。糖尿病による高血糖の状態は、細胞にダメージを与える「酸化ストレス」、つまり体がサビつくような状態を引き起こします。

この酸化ストレスは、眼の奥にある網膜の細い血管だけでなく、レンズの役割を果たす水晶体の細胞にもダメージを与え、白内障の進行を早める可能性も指摘されています。だからこそ、糖尿病と診断されたらすぐに、将来の眼の健康を守るための「備え」を始めることが何よりも大切なのです。

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「症状がないから」は危険!糖尿病診断後すぐに眼科へ行くべき理由

「特に見えにくさはないから、眼科はまだ先でいいかな」と思っていませんか。実は、その考え方が最も危険です。糖尿病網膜症は、物を見る中心部分である網膜に痛みを感じる神経がないため、かなり進行するまで自覚症状がほとんど現れません。

血管が傷ついたり、小さな出血が起きたりしていても、ご自身で気づくことは極めて困難なのです。症状がないうちから眼科へ行くべき理由は、大きく3つあります。

  1. 手遅れになる前の早期発見・早期治療のため
     「目のかすみ」や「視力低下」などの症状に気づいたときには、網膜症がかなり進行している可能性があります。しかし、症状がない初期の段階で発見できれば、血糖コントロールをしっかり行うことで、進行を食い止め、状態を改善させることも十分に期待できます。

  2. ご自身の眼の「基準点(ベースライン)」を知るため
     最初に眼科を受診することで、糖尿病と診断された時点での眼の状態を正確に記録できます。これは「ベースラインの確認」と呼ばれ、いわば眼の健康診断の初回データです。この記録があることで、その後の定期検診で起きたわずかな変化も正確に比較でき、迅速な対応につながります。

  3. 血糖コントロールのモチベーションを維持するため
     私たち内科医にとっても、患者さんが眼科で「異常なし」と言われることは大変嬉しい報告です。ご自身の頑張りが眼の健康に繋がっていると実感できることは、日々の治療を続ける上で大きな励みになります。

眼科医が推奨する定期検診の頻度と内科主治医への報告の仕方

糖尿病網膜症の進行を防ぐためには、症状がなくても定期的に眼科を受診することが不可欠です。受診の頻度は、網膜症の進行度によって異なります。

網膜症の状態 推奨される受診頻度の目安
網膜症がない場合 年に1回
単純糖尿病網膜症(初期) 3ヶ月~6ヶ月に1回
増殖前糖尿病網膜症(中期) 1ヶ月~3ヶ月に1回
増殖糖尿病網膜症(進行期) 治療内容により1ヶ月に1回以上

これはあくまで一般的な目安です。血糖コントロールの状態や血圧、妊娠の有無などによって頻度は変わりますので、必ず眼科医の指示に従ってください。

そして、眼科で受けた検査結果は、必ず私たちのような内科の主治医にもご報告ください。眼は、糖尿病による血管の状態を直接観察できる「窓」のようなものです。眼科からの情報は、全身の血管の状態を推測し、今後の治療方針を決める上で非常に重要な手がかりとなります。

【内科主治医への報告のポイント】

  • 検査結果の用紙を持参する
     眼科でもらった資料は、そのままお持ちいただくと最も正確に情報が伝わります。
  • 眼科医からの指示を伝える
     「次は〇ヶ月後に来てくださいと言われました」など、医師の言葉を具体的に教えてください。
  • 「糖尿病連携手帳」を活用する
     この手帳は、内科医と眼科医があなたの情報を正確に共有するための、いわば「交換日記」です。スムーズな連携治療に繋がりますので、ご希望の方はお気軽にご相談ください。

視力低下に備えるロービジョンケアと利用できる社会福祉サービス

万が一、網膜症が進行し、視力に影響が出てしまった場合でも、決して悲観的になる必要はありません。見えにくさを補い、生活の質を保つための「ロービジョンケア」という前向きな考え方があります。

これは治療とは異なり、今ある視機能を最大限に活かすための工夫やサポートのことです。

【ロービジョンケアの具体例】

  • 補助具の活用
     文字を読むための拡大鏡や拡大読書器、まぶしさを和らげる遮光眼鏡などがあります。
  • IT機器の活用
     スマートフォンの音声読み上げ機能や、画面の文字を大きくするアプリなどが便利です。
  • 生活環境の整備
     部屋の照明を明るくしたり、物の配置を工夫したりすることも有効な手段です。

また、視力の低下で生活や仕事に支障が生じた場合には、様々な公的支援を利用することができます。一人で抱え込まず、利用できる制度は積極的に活用しましょう。

制度名 どんな時に使えるか メリットの例
身体障害者手帳 視覚障害の程度が基準を満たした場合 税金の控除、公共料金の割引など
障害年金 視力低下で仕事などが制限される場合 生活を支える年金が支給される
高額療養費制度 治療費が高額になった場合 自己負担額の上限を超えた分が戻る
医療費控除 1年間の医療費が一定額を超えた場合 確定申告で税金の一部が戻る

これらのサービスに関するご相談は、市区町村の福祉担当窓口や、病院の相談員(ソーシャルワーカー)が受け付けています。ご不安なことがあれば、まずは当院にご相談ください。情報提供や関係機関へのご紹介も可能ですので、いつでもお声がけください。

まとめ

今回は、自覚症状なく進行する糖尿病網膜症の怖さと、大切な眼を守るための具体的な方法について解説しました。

この病気から視力を守るための鍵は、ただ一つ。「症状がないうちから定期的に眼科で検査を受けること」に尽きます。日々の血糖コントロールを良好に保つことは大前提ですが、過去の高血糖の影響などから、気づかぬうちに網膜症が進行している可能性も否定できません。

「まだ見えているから大丈夫」と思わず、糖尿病と診断されたら、まずは一度眼科を受診し、ご自身の眼の状態を知ることが大切です。それが、これからの人生もクリアな視界で過ごすための、最も重要で確実な第一歩となります。不安なことや疑問があれば、いつでも専門医に相談してください。一緒にあなたの大切な眼を守っていきましょう。

参考文献

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この記事を書いた人

医療法人社団健楓会 統括責任者

小澤 剛史

医療法人社団健楓会 理事長 小澤 剛史
資格
日本糖尿病学会糖尿病内科専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本医師会認定産業医 他
プロフィール
東京医科大学医学部卒業後、東京女子医科大学病院糖尿病センターや地域中核病院にて、高度かつ総合的な内科・糖尿病診療の研鑽を積んできた。 現在はせたがや仙川クリニックの統括責任者として、薬物療法だけでなく食事や生活背景まで考慮し、「長く安心して通えるかかりつけ医」として地域医療を支えている。
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