風邪でごはんが食べられない時、糖尿病の薬やインスリンはどうする?命を守る「シックデイ」のルールを専門医が解説!
糖尿病をお持ちの方が風邪をひいた際、「食欲がなくてほとんど食べていないのに、なぜか血糖値が普段より高い…」そんな不可解な経験はありませんか?実はこれ、体調不良時に陥りやすい「シックデイ」という、特に注意が必要な状態を示すサインです。良かれと思った自己判断が、かえって命に関わる事態を招くことも少なくありません。
なぜ食事を摂っていないのに血糖値が上がるのか?その体のメカニズムから、食事の量に応じたインスリンや薬の具体的な調整法、そして多くの人が陥りがちな失敗談まで、この記事では専門医が徹底解説します。いざという時にあなたと家族の命を守るための「シックデイ・ルール」を学び、不安な時も落ち着いて対処できるようになりましょう。
なぜ風邪で食べていないのに血糖値が上がる?シックデイのメカニズム
糖尿病をお持ちの方が風邪やインフルエンザにかかった際、こんな経験はありませんか。
「熱があって食欲もなく、ほとんど食べていないのに血糖値が普段より高い…」
これは決して珍しいことではなく、「シックデイ(体調の悪い日)」と呼ばれる、糖尿病の治療において特に注意が必要な状態です。体の防御反応が、意図せず血糖値を上昇させてしまうのです。
なぜこのような現象が起こるのか、その体の仕組みを正しく知ることが、シックデイを安全に乗り切るための第一歩です。これから、そのメカニズムを一緒に詳しく見ていきましょう。

高血糖を引き起こす「ストレスホルモン」の仕業とは
風邪による発熱や下痢、嘔吐といった体調不良は、体にとって非常に大きな「ストレス」です。この緊急事態に対応するため、私たちの体は普段よりも多くの「ストレスホルモン」を分泌します。
代表的なストレスホルモンには、以下のものがあります。
- コルチゾール
- アドレナリン
- グルカゴン
これらのホルモンは、体が病気と戦うためのエネルギーを確保しようと働きます。具体的には、肝臓に蓄えられたグリコーゲンをブドウ糖に変えたり、筋肉などでの糖の利用を抑えたりします。
つまり、食事から糖分を摂っていなくても、体自身が血糖値を上げてしまうのです。
さらに、これらのホルモンはインスリンの効きを悪くする作用(インスリン抵抗性)も持っています。健康な人であれば、インスリンを追加で分泌して対応できます。
しかし、インスリンの働きがもともと弱い糖尿病の方にとっては、この防御反応が高血糖の引き金となってしまうのです。
高血糖が脱水を招き、さらに高血糖になる悪循環の仕組み
シックデイで高血糖が続くと、「高血糖が脱水を招き、脱水がさらに高血糖を悪化させる」という危険な悪循環に陥りやすくなります。
この悪循環は、次のような段階で進行します。
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高血糖が「多尿」を引き起こす 血糖値がおおむね180mg/dLを超えると、腎臓で処理しきれなくなったブドウ糖が尿中にあふれ出します。この時、ブドウ糖は水分を一緒に体外へ排出する性質があるため、尿の量が異常に増えてしまいます。
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多尿が「脱水」を招く 尿量が増えることに加え、発熱による発汗や、嘔吐・下痢も重なると、体内の水分は急速に失われ、脱水状態に陥ります。
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脱水が「高血糖」をさらに悪化させる 脱水によって体全体の血液量が減少すると、血液が濃縮されます。その結果、血液中のブドウ糖の濃度、つまり血糖値はさらに上昇してしまいます。
この悪循環を断ち切るためには、血糖値の管理はもちろんのこと、意識してこまめに水分を補給することが極めて重要になります。
逆になぜ低血糖が危険なのか?薬の種類と食事量のアンバランス
シックデイでは高血糖に注意が向きがちですが、使用している薬の種類によっては「低血糖」のリスクも高まります。
特に食欲不振でいつもの食事が摂れない時に、普段通りに薬を飲むと、薬の効果が食事からの糖質量を上回ってしまい、血糖値が下がりすぎて危険な状態になることがあります。
以下の薬を使用している方は、特に注意が必要です。
| 薬の種類 | 低血糖が起こりやすい理由 |
|---|---|
| インスリン注射 | 特に超速効型や速効型は、食事量に合わせて単位を調整しないと低血糖のリスクが高まります。 |
| SU薬 | 食事量に関係なくインスリン分泌を促すため、食事が摂れないと血糖値が下がりすぎる可能性があります。 |
| グリニド薬 | SU薬と同様の作用ですが、効果が短時間です。それでも食事を抜いたり、量が少なかったりすると低血糖の危険があります。 |
また、市販の風邪薬に含まれる解熱鎮痛剤(アスピリンなど)には、一部の血糖降下薬の作用を強め、低血糖を助長するものもあります。
シックデイの際は、高血糖と低血糖の両方に気を配り、自己判断で薬の量を調整しないことが何よりも大切です。
見逃すと命に関わる「糖尿病ケトアシドーシス」の正体
シックデイで最も警戒すべき合併症が「糖尿病ケトアシドーシス」です。これは、インスリンが極端に不足することで起こる、命に関わる緊急事態です。
特にインスリン注射が不可欠な1型糖尿病の方に起こりやすいですが、インスリン分泌能力が著しく低下している2型糖尿病の方でも発症する可能性があります。
糖尿病ケトアシドーシスは、以下の流れで進行します。
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エネルギー源の枯渇 インスリンが極度に不足すると、血液中のブドウ糖を細胞がエネルギーとして利用できなくなります。
-
代替エネルギーの産生 体はエネルギー不足を補うため、代わりに脂肪を分解して「ケトン体」という物質を作り出します。
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血液の酸性化(アシドーシス) このケトン体は酸性の物質です。ケトン体が血液中に大量に増えると、血液が強い酸性に傾き、体の様々な機能に重大な障害を引き起こします。
進行すると意識障害や昏睡に至ることもあり、一刻を争う状態です。以下のサインが見られたら、絶対に様子を見ず、すぐにかかりつけ医に連絡するか、救急車を呼んでください。
【危険なサイン:すぐに受診が必要な症状】
- 強い吐き気や嘔吐が止まらない
- 我慢できないほどの激しい腹痛がある
- 深く、大きな呼吸をしている(クスマウル呼吸)
- 息から果物が腐ったような甘酸っぱい匂い(アセトン臭)がする
- 意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応が鈍い
- 自宅で尿ケトン体を測定し、(++)以上の陽性が続く
【状況別】これならできる!食事量に応じた薬と食事の具体策
体調が悪い時は、いつもと同じように食事をとることが難しくなりますよね。 「何を食べたらいいの?」「薬はこのままで大丈夫?」と不安に感じるかもしれません。
シックデイを安全に乗り切るには、その時の体の状態に合わせた対応が何より重要です。 食事の量と、お薬の効果のバランスが崩れやすいからです。 ここでは状況別に具体的な対処法を専門医の視点から詳しく解説します。 ご自身の状態に一番近いケースを参考に、落ち着いて対応していきましょう。

ケース1:水分しかとれない時の経口補水液の選び方と薬の調整法
高熱や吐き気で固形物がまったく喉を通らない。 そんな時は、まず「脱水」を防ぐことが最優先の目標になります。 シックデイでは、発熱や下痢などで、気づかないうちに体から水分と塩分が失われがちです。
意識して水分を摂るように心がけてください。 目安として、最低でも1日に1000〜1500mlの水分を、一度にたくさんではなく、こまめに分けて飲むことが大切です。
飲み物の選び方:吸収の速さがカギ
水分補給には、糖分と塩分(電解質)がバランスよく含まれているものが適しています。 体の細胞に素早く水分を吸収させるためです。
| 飲み物の種類 | 特徴と注意点 |
|---|---|
| 経口補水液 | 糖と電解質の濃度が体液に近く、吸収が最も速いのでおすすめです。シックデイの備えとして薬局などで購入しておくと安心です。 |
| スポーツドリンク | 経口補水液より糖分が多めなので、高血糖に注意が必要です。水で少し薄めたり、血糖値を測りながら少量ずつ飲んだりする工夫をしましょう。 |
| 野菜スープ、味噌汁 | 水分と塩分を同時に補給できます。具は無理に食べず、温かい汁を飲むだけでも体を温め、落ち着かせる助けになります。 |
| ジュース(果汁100%) | カリウムなどのミネラルも補給できます。ただし、糖分が多いため、血糖値を見ながら飲む量を調整することが大切です。 |
薬の調整:自己判断での中断は絶対にしない
食事がとれない状態で普段通りに薬を使うと、低血糖を起こす危険があります。 特にインスリン注射や一部の血糖降下薬は、減量や一時的な中止が必要な場合があります。
しかし、自己判断で薬を中断するのは絶対にやめてください。 例えば、食事をとっていなくても血糖値を一定に保つための基礎インスリン(持効型インスリン)は、体の生命維持に不可欠です。 これを自己判断で止めてしまうと、血糖値が急上昇し、糖尿病ケトアシドーシスという危険な状態を招く恐れがあります。
必ずかかりつけの医師に電話で相談し、具体的な指示を仰いでください。
ケース2:ゼリーやおかゆなら食べられる時の糖質量とインスリン単位の目安
少し食欲が戻り、ゼリーやおかゆなら食べられそうな時。 この段階では、体を動かすための最低限のエネルギー源として「糖質」を補給することが重要です。
糖質の摂取が不足すると、体はエネルギー不足を補うために脂肪を分解し始めます。 この過程で「ケトン体」という酸性の物質が血液中に増えすぎると、体が酸性に傾く危険な状態(糖尿病ケトアシドーシス)を招くことがあります。
食事の選び方と糖質量の目安
ケトン体の産生を抑えるため、1日に合計で100〜200g程度の糖質をとることを目標にしましょう。 消化が良く、口当たりの良いものを選んでください。 一度にたくさん食べられない場合は、数時間おきに少量ずつ食べる「分食」がおすすめです。
| 食べ物の例 | 糖質量の目安(およそ) |
|---|---|
| おかゆ(お茶碗1杯) | 約35g |
| うどん(半玉) | 約25g |
| ゼリー飲料(1個) | 約20〜45g |
| アイスクリーム(カップ1個) | 約20〜30g |
| バナナ(1本) | 約20g |
| りんご(半分) | 約15g |
インスリンの調整:基礎と追加の役割を理解する
食事をとる場合は、その糖質量に合わせて超速効型インスリンの単位を調整します。 一方で、基礎インスリンは、食事をとらなくても血糖値を安定させるために必要なものです。 原則として、自己判断で中止したり、量を大きく変更したりしてはいけません。
シックデイの際のインスリン調整は、非常に専門的な判断が求められます。 いざという時に慌てないために、普段の診察で「こんな時は何単位にする」という具体的なルールを主治医と一緒に決めておくことが、何よりも大切です。
ケース3:下痢や嘔吐が止まらない時に絶対にすべきこと、してはいけないこと
下痢や嘔吐が続いている時は、体から水分と電解質が急速に失われます。 これはシックデイの中でも特に危険な状態で、脱水が急激に進み、命に関わる状態に陥る可能性があるため、迅速な対応が必要です。
絶対にすべきこと(Do)
- すぐに医療機関に連絡する 最も優先すべき行動です。かかりつけ医に電話で状況(症状、血糖値、飲んでいる薬など)を正確に伝え、指示を仰いでください。夜間や休日の場合は、救急外来の受診もためらわないでください。点滴による水分補給が必要になることも多くあります。
- 少量ずつの水分補給を試みる 飲んでも吐いてしまうかもしれませんが、諦めずに経口補水液をスプーン1杯ずつ、5〜10分おきに口に含むなど、根気強く試みてください。
- 血糖値と尿ケトン体を頻繁に測る 血糖値が急激に変動しやすいため、1〜2時間おきに測定しましょう。可能であれば尿ケトン体も測定し、状態を記録しておくと、受診の際に非常に役立ちます。
絶対にしてはいけないこと(Don’t)
- 特定の糖尿病治療薬を飲み続ける 糖尿病の薬の中には、脱水時に重い副作用(乳酸アシドーシスなど)を起こすリスクが高まるものがあります。医師の指示なく服用を続けないでください。
- **特に注意が必要な薬:**ビグアナイド薬(メトグルコなど)、SGLT2阻害薬(フォシーガ、ジャディアンスなど)
- 無理に食べようとする 胃腸を休ませることが大切です。まずは水分補給に専念してください。
- 「そのうち治るだろう」と我慢する この状態での我慢は大変危険です。数時間で状態が急激に悪化することも少なくありません。ためらわずに医療機関を頼ってください。
食欲がない時でも食べやすい!管理栄養士おすすめ回復食レシピ3選
体調が悪い時は、調理をするのも億劫になりますよね。 ここでは、食欲がない時でも食べやすく、簡単に作れて栄養も補給できる回復食のレシピを3つご紹介します。 無理のない範囲で試してみてください。
1. 鶏ささみと卵のとろとろ雑炊
- 材料 ごはん、水、鶏ささみ(ほぐしたもの)、卵、めんつゆ、刻みネギ
- 作り方 鍋にごはんと水、鶏ささみ、めんつゆを入れて火にかけます。ごはんが柔らかくなったら溶き卵を回し入れ、ネギを散らして完成です。
- ポイント 消化の良い炭水化物と、体力の回復を助けるタンパク質を同時にとれます。筋肉の分解を防ぎ、消耗を抑えるのに役立ちます。
2. ほんのり甘いリンゴの葛湯(くずゆ)
- 材料 葛粉、水、すりおろしリンゴ(またはリンゴジュース)、砂糖やはちみつ(少量)
- 作り方 鍋に材料をすべて入れてよく混ぜてから火にかけ、とろみがつくまでゆっくりかき混ぜます。
- ポイント 体を内側から温め、水分と糖分を手軽に補給できます。喉ごしが良く、吐き気がある時でも比較的飲みやすいのが特徴です。
3. 冷製かぼちゃのポタージュ
- 材料 かぼちゃ(冷凍や電子レンジで加熱したもの)、牛乳(または豆乳)、コンソメ少々
- 作り方 材料をすべてミキサーにかけるだけで作れます。温めても冷たいままでも美味しくいただけます。
- ポイント ビタミンが豊富なかぼちゃで手軽に栄養補給ができます。高熱で口の中が熱い時でも、ひんやりとして食べやすい一品です。
専門医が明かす「シックデイ対応のよくある失敗談」と正しい対策
糖尿病の治療を日々頑張っている方でも、風邪などの体調不良、つまり「シックデイ」の時には普段と勝手が違い、戸惑うことが少なくありません。
診察室でも「良かれと思ってやったのですが…」というお話をよく伺います。 その対応が、かえって体調を急激に悪化させてしまう危険もあるのです。
ここでは専門医として日々患者さんと接する中で見えてきた、シックデイ対応で陥りやすい失敗談をご紹介します。 そして、その失敗から学ぶべき正しい対策を一緒に確認していきましょう。 これは、いざという時にあなたとあなたの大切な人の命を守るための、非常に重要な知識です。

失敗談1:「食欲ないから」と基礎インスリンを自己判断で中断してしまった
「食事をとっていないのだから、血糖値を下げるインスリンもいらないはずだ」 このように考えてしまうのは、シックデイで最も多く、そして最も危険な誤解の一つです。
特に、1日に1回注射する持効型インスリン(基礎インスリン)の役割を正しく理解することが重要です。 このインスリンは、食事とは関係なく、心臓を動かしたり呼吸をしたりといった生命活動を維持するために、体が最低限必要とするインスリンを補う「土台」の役割を担っています。
風邪をひくと、体はストレスに対抗するため血糖値を上げるホルモン(コルチゾールなど)を分泌します。 そのため、食事をしていなくても血糖値はかえって上昇しやすい状態にあるのです。 この状態でインスリンを中断すると、血糖値は急上昇してしまいます。
【正しい対策】
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基礎インスリンは、絶対に自己判断で中断しない 特に1型糖尿病の方がインスリンを完全に中断すると、体はエネルギー源のブドウ糖を使えなくなります。すると、体は代わりに脂肪を分解して「ケトン体」という酸性の物質を作り出します。 このケトン体が血液中に増えすぎると、血液が酸性に傾き、吐き気や腹痛、意識障害などを引き起こす「糖尿病ケトアシドーシス」という命に関わる危険な状態に陥ります。
-
インスリン量の調整は、必ず医師の指示に従う シックデイの際のインスリン調整は、非常に専門的な判断が求められます。 必ず事前に主治医と決めたルールに従うか、電話などで指示を仰いでください。自己判断は絶対に避けましょう。
失敗談2:スポーツドリンクの糖分で逆に高血糖になってしまった
高熱で食欲がない時、手軽に水分とエネルギーを補給できるスポーツドリンクは非常に便利に思えます。 しかし、ここに思わぬ落とし穴が潜んでいます。
一般的なスポーツドリンクは、運動で失われたエネルギーを素早く補給できるよう、思った以上に多くの糖分(ブドウ糖や果糖)を含んでいます。 シックデイの時は、ストレスホルモンの影響でインスリンの効きが悪くなっている(インスリン抵抗性が高まっている)状態です。
この状態で糖分の多いスポーツドリンクを飲むと、血糖値が急上昇し、高血糖をさらに悪化させてしまうのです。 水分補給は命綱ですが、「何を飲むか」を正しく選ぶことが同じくらい大切です。
【正しい対策】
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水分補給の第一選択は「経口補水液」にする 脱水状態の改善には、糖分が比較的少なく、失われた水分と電解質(ナトリウムなど)を効率よく補給できる経口補水液が最も適しています。 薬局などで購入し、ご家庭に常備しておくと安心です。
-
飲み物の特徴を理解し、飲み方を工夫する もしスポーツドリンクなどを利用する際は、一度にたくさん飲むのは避けましょう。 血糖値をこまめに測りながら、少しずつ飲むことで血糖値の急上昇をある程度抑えられます。
| 飲み物の種類 | 主な目的 | 糖質量(目安) | シックデイでの注意点 |
|---|---|---|---|
| 経口補水液 | 脱水の改善 | 少ない | 水分と電解質を最も効率よく吸収できる。第一選択として推奨。 |
| スポーツドリンク | エネルギー補給 | 多い | 糖分が多く高血糖を招きやすい。飲む量やタイミングに注意が必要。 |
| 水・お茶 | 日常の水分補給 | ほぼゼロ | 電解質や糖分は含まれず、脱水時や低血糖時の補給には不十分。 |
失敗談3:連絡をためらっているうちに重症化し救急搬送されてしまった
「熱があるだけだから、もう少し様子を見よう」 「こんなことで病院に電話したら、迷惑じゃないだろうか」
患者さんのこうした真面目さや遠慮が、対応を遅らせてしまうことが少なくありません。 しかし、シックデイの状態は、数時間で急速に悪化することがあります。 様子を見ているうちに意識がもうろうとし、ご家族が慌てて救急車を呼ぶというケースは、残念ながら後を絶ちません。
特にご高齢の方や、もともと血糖コントロールが不安定な方は、脱水や高血糖が急激に進行しやすい傾向があります。 シックデイにおいて、我慢や遠慮は禁物です。 早期に専門家へ相談し、適切な対応を始めることが何よりも大切なのです。
【正しい対策】
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「おかしい」と感じたら、ためらわずに連絡する 私たち医療機関は、患者さんが不安な時に頼っていただくために存在します。 遠慮はまったく必要ありません。少しでも不安や異常を感じたら、すぐにかかりつけ医に電話で相談してください。
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連絡・受診の目安をあらかじめ知っておく 以下の症状が見られる場合は、様子を見ずに直ちに医療機関に連絡するか、受診を検討してください。
【危険なサイン:すぐに連絡・受診すべき症状チェックリスト】
- 丸一日(24時間)以上、食事や水分がほとんど摂れていない
- 嘔吐や下痢が何度も続いて止まらない
- 自宅で測れる血糖値が350mg/dL以上の高い状態が続く
- 薬を減らしても低血糖(70mg/dL未満)が続く
- 我慢できないほどの強い腹痛や、吐き気がある
- 呼吸が苦しい、息がハアハアと荒い
- 意識がはっきりしない、呼びかけへの反応が鈍い
失敗から学ぶ「これだけは守ってほしい」命を守る3つの約束
シックデイは、糖尿病を持つ方なら誰にでも起こりうることです。 しかし、正しい知識と事前の準備があれば、重症化を防ぎ、安全に乗り切ることができます。
これまでの失敗談を踏まえ、ご自身の命を守るために、以下の3つの約束をぜひ心に刻んでください。
【命を守る3つの約束】
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約束1:自己判断で薬を止めたり、変えたりしない シックデイの薬の調整は、天候を読んで飛行機を操縦するような、専門的な判断が必要です。 特にインスリンや一部の飲み薬は、自己判断での中断や減量が命に関わる事態を招きます。 必ず事前に主治医と相談して決めたルールに従うか、その都度電話で指示を仰いでください。
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約束2:こまめに測り、こまめに補給する 体調が悪い時こそ、こまめな血糖測定(できれば2〜4時間ごと)が、暗闇を照らす懐中電灯になります。 そして、測定値を確認しながら、経口補水液などで水分をこまめに補給し、脱水を防ぎましょう。 食事が摂れない時も、ゼリー飲料などで最低限の糖質を摂ることが、体を守る上で重要です。
-
約束3:「変だな」という自分の感覚を信じて、すぐに相談する 一番危険なのは、「これくらい大丈夫だろう」と我慢してしまうことです。 あなたの「いつもと違う」「何だか変だな」という感覚は、体からの重要なサインです。 あなたには、いつでも相談できる私たちかかりつけ医がいます。不安な時は一人で抱え込まず、ためらわずに連絡してください。
普段からかかりつけ医とよく話し合い、あなた専用の「シックデイルール」を一緒に作っておくことが、何よりものお守りになります。
まとめ
今回は、糖尿病の方が風邪などで体調を崩した「シックデイ」の対応について、詳しく解説しました。
食べていないのに血糖値が上がるなど、普段と違う体の反応に不安を感じるかもしれません。
シックデイで最も大切なことは、自己判断でインスリンなどの薬を絶対に止めないこと、こまめな水分補給と血糖測定を続けること、そして「いつもと違う」と感じたら、ためらわずにすぐにかかりつけ医へ相談することです。
この3つのルールが、いざという時にご自身の命を守るお守りになります。
普段から主治医とあなた専用の「シックデイルール」を話し合っておくと、さらに安心です。一人で抱え込まず、不安な時は私たち専門家を頼ってくださいね。
